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中医協分科会委員・井川誠一郎先生に聞く――2022年度診療報酬改定のポイントとは

平成医療福祉グループ 診療本部長 井川誠一郎先生

日本の保険医療を支える「診療報酬制度」。診療報酬の点数は、医療の進歩や国内の経済状況などを踏まえて2年に一度見直し(診療報酬改定)が行われています。診療報酬点数を見直すうえで重要な役割を果たしているのが中央社会保険医療協議会(中医協)です。中医協で入院医療等の調査・評価分科会委員を務める井川 誠一郎(いかわ せいいちろう)先生(平成医療福祉グループ診療本部長)に、2022年度診療報酬改定のポイントと共に今後の日本医療のあり方や方向性について伺いました。


ドラスティックな変更は2024年度に

2022年度の診療報酬改定の傾向として、全体的にドラスティックな変更は行われないと予想しています。というのも通常は診療報酬改定に向けて各施設に調査票が配布され、数千施設のデータを基に議論が行われるのですが、今回は調査期間中に新型コロナウイルス感染症の感染拡大などがあり、調査結果を正確に捉えにくい状況にあるからです。大きな変更はおそらく次回、2024年度の診療報酬改定で行われると思われます。


“抜け道”的な部分は厳しく見直される

療養と慢性期医療の分野では、きちんと治療している病院を評価するための変更が行われる見込みです。たとえば、少数の看護師と多数のリバビリテーション専門職を配置してあたかも「ミニ回復期リハビリテーション病棟」の様相を呈している経過措置型の療養病棟であっても診療報酬点数が上がってしまうなど、不公平を生むいわゆる“抜け道”的な部分に関しては厳しく見直されることになるでしょう。

また、医療区分3のうち「中心静脈栄養を実施している状態」の要件が見直される予定です。というのも、これまでの調査を通じて療養病床の医療区分3では患者に中心静脈栄養を行うケースが極めて多いと認識されていましたが、今回の調査で精査したところ、実際には療養病棟に入院している方で中心静脈栄養をしているのは1割ほどであると分かったのです。

議論の中で、慢性期病院として反省するべき点も見えてきました。中心静脈栄養だけで医療区分3を取っている施設には、中心静脈栄養を離脱して患者を在宅復帰させるというイメージや発想が欠けていた可能性があるのです。その点を考慮し、今回の改定では中心静脈栄養からの早期離脱と経口摂取への切り替えを促すために「摂食嚥下支援加算(せっしょくえんげしえんかさん)」の要件・評価も見直される可能性があります。


地域包括ケア病棟の使い方について改善の余地

議論の中でもっとも問題になったのは、地域包括ケア病棟の使い方についてです。調査の中で、大病院に設置された地域包括ケア病棟では自院の急性期病棟からの院内転棟が非常に多いことが分かったのです。これでは、本来地域包括ケア病棟に期待される▽ポストアキュート受け入れ機能▽サブアキュート(在宅患者などが急変した場合)受け入れ機能▽在宅復帰機能――のうち一部しか果たしていないことになります。

このような状況を改善するために、地域包括ケア病棟が担うべき役割に応じた医療提供を推進する観点で入院料の要件・評価を見直す動きがあります。ただ、地域包括ケア病棟の活用方法にはさまざまな可能性があり、地域内の医療資源などの実情に応じてバリエーションに富むのは自明です。そのため3機能の割合を同等にするのは困難であるという意見も出ました。自院の急性期病棟からの院内転棟が100%という極端なものでなければ、各地域の事情に応じた適切な地域包括ケア病棟のあり方を遂行できるよう、今後の改定が望まれます。


「栄養管理」の重要性が浮き彫りに

ICU以外の救急などで栄養管理関連の加算も?

分野横断的な部分では、今回の調査で「栄養管理」の重要性が浮き彫りになりました。

前回の診療報酬改定では「早期栄養介入管理加算」すなわち、患者の早期離床・在宅復帰を推進する観点から特定集中治療室(ICU)にて早期に栄養管理を実施した場合における加算が新設されました。それにより、現在はICUで管理する重症患者の栄養状態が適正にコントロールされるようになっています。しかし一方で急性期病院から慢性期病院に移ってくる軽症・中等症の患者の栄養状態には改善の余地があり、ときには重症だった患者のほうが栄養状態がよいという“逆転現象”が起こっていたことが分かりました。これは、今回のコロナ禍で慢性期病院がポストコロナ患者を多く受け入れたために分かったことの1つです。

 

写真:PIXTA

 

このような結果から治療と並行して早期に栄養管理を行う重要性が明らかになったため、2022年度・2024年度の診療報酬改定ではICU以外の救急医療などにおいても早期栄養介入管理に関連する加算が新設される可能性があります。

 

医療・介護の分野で「管理栄養士」の需要が高まっている

実は、2021年度の介護報酬改定でも栄養管理に関するアップデートがありました。介護保険施設における栄養ケア・マネジメントの強化を目的として、従来は「栄養士を1名以上配置」だった運営基準が「栄養士または管理栄養士を1以上配置」に変更されたのです。また多職種連携で行う看取り期における栄養ケア、あるいは褥瘡(じょくそう)ケアにおいて管理栄養士の役割や関与を強化するための改定が行われました。

このように今、医療・介護の世界では管理栄養士の需要が高まり、活躍の場が拡大しています。国家資格である管理栄養士の試験には年間1万人ほどが合格していますが、免許交付数は累計21万ほどで、そのうち病院で働いているのは2万人ほどです(2016年データ)。つまり“潜在管理栄養士”が非常に多いということです。そのような方々を掘り起こし、病院や介護保険施設などで活躍してもらうことが今後の課題となるでしょう。

4年間栄養学について専門的に学び資格を有する管理栄養士は、私たち医療者よりも栄養に関する知識が豊富です。今後は病院としても、彼らがその知識を存分に生かして活躍し、患者の栄養状態改善に寄与できる環境を整えていく必要があると考えています。

 

写真:PIXTA


「医師の働き方改革」に向けては課題も

医師の働き方改革については種々の見直し項目が検討されていますが、優先度としては少々低い印象です。結局のところタスクシフティングが肝になると思いますが、特定看護師の育成は当初の予定どおり進んでいません。制度が施行された2015年当初は「2025年までに研修修了者が10万人以上」を目標にしていましたが、2020年9月時点で修了者総数4,393人と目標にはほど遠いのが現状です。その背景にはインセンティブの欠如があると考えられるため、今回の議論では特定看護師を増やすための方法についても意見を出し合いました。

さらにもう1つ課題があります。現在、特定看護師が働く場所は主に病院となっていますが、彼らをより必要としているのはむしろ在宅医療や介護保険施設ではないか、という点です。在宅医療の訪問先や施設において特定看護師が褥瘡管理、血糖コントロール、脱水治療、軽い発熱に対する抗生剤投与などを行うことができれば、病院受診率はかなり減るでしょう。しかしながら特定看護師が在宅や施設で活躍する例はまだまだ少ないという現状があります。このような課題を克服するための改定が今後進んでいくことを期待しています。

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