キャリア 2018.06.17
リハビリテーションの魅力とは?
浜松リハビリテーション病院 藤島一郎先生
関連記事では、嚥下障害(えんげしょうがい)の原因や評価、リハビリテーションについてご説明しました。本記事では、脳神経外科からリハビリテーションの領域に転向された藤島一郎(ふじしま いちろう)先生に、その理由や回復期・慢性期医療の魅力を伺います。
*なぜリハビリテーションの世界に転向したのか?
- 救命できても、生活ができなければ意味がないと思った
もともとは脳神経外科医として、脳卒中の治療や術後のケアを担当していました。しかし、そのなかで手術を行う症例というのは非常に限られていて、実際には9割以上がリハビリテーションを必要とする症例だったのです。
急性期医療によって患者さんが一命をとりとめたとしても、その後に生活ができなければ意味がない。自分で動ける、食べられる、排泄できる=「生活できる」ためには、リハビリテーションを含めた回復期・慢性期医療が必要不可欠だと感じました。
このような経験を通して、「急性期医療を支えているのは、実は回復期・慢性期医療なのでは?」という思いが徐々に強くなっていきました。
*回復期・慢性期医療の魅力とは?
- 患者さんの人生に長くじっくり寄り添える
急性期医療をやっていた頃は、患者さんは目の前を通りすぎるだけでした。しかし、回復期・慢性期医療は違う。実際、30年以上のお付き合いがあり、50代から80代になるまでの時間で、長くじっくりとお付き合いは続いている方がいます。そのような方々と人生観を共有することもできますし、何より、「ありがとう」と感謝されます。
- 「人間の本当の幸せとは何か」という哲学的な視点
一般的に、急性期医療は長くても1〜2か月ほど、短ければ数日しかかかわりを持たないといいます。ところが、慢性期医療は患者さんの人生のうち10年、20年、ときにはもっと長い時間を共有する。患者さんやご家族の人生に長く深く寄り添うことで、「人間の本当の幸せとは何か?」というテーマを自然と考えるようになります。リハビリテーションを含めた慢性期医療には、そのような哲学的な視点があり、大きな魅力だと感じています。
*リハビリテーション、慢性期医療を志す方へメッセージ
- 救命だけが医療ではない。リハビリテーションは面白い!
医師として、急性期医療でテクニカルに磨くことももちろん大切です。しかし、医療の面白さはそれだけはありません。障害を持って生きていかねばならない状況の方を、リハビリテーションを通じて「生活できる」状態に持っていく、仕事ができない状況の方に復職してもらう、家族に障害を理解してもらい患者さんに家に帰ってもらう—。その喜びは、何にも代えがたいものです。
- 多職種とかかわり患者さんをよくするというやりがい
私はこれまでに60名以上のリハビリテーション科医を育ててきました。当院にも、非常勤も入れれば20名のリハビリテーション科医が在籍しています。(2018年現在)リハビリテーションや回復期・慢性期医療の魅力を発信し続けてきたからこそ、今があると感じています。
リハビリテーションは幅広い職種がかかわり、患者さんをみていきます。実際、熱意ある看護師さんや療法士さんをはじめ、多職種が連携し、「患者さんをよくしたい」と一生懸命にリハビリテーションを実施しています。
*まとめ
記事1〜3では嚥下障害の評価やリハビリテーション方法をお伝えしました。嚥下障害というテーマは、リハビリテーション科医がスペシャリストになれる領域です。ほかの診療科の誰よりもできる「武器」を持つことは、医師として非常に大切なことでしょう。
「自分で食べられる」ことは、生きる喜びに直結します。若手医師の方々には、患者さんの人生を支えるリハビリテーション、そして嚥下障害というテーマを学び、来たる慢性期医療の世界で活躍して欲しいと思います。