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アメリカでの経験を生かし、リハビリ部門の統括へ――現在の取り組みと思い

島の病院おおたに 副院長 大谷ひろみ先生

医療法人社団 大谷会 島の病院おおたに(以下、島の病院おおたに)は、広島県江田島エリアを守る病院のひとつとして、近隣のみならず市外の人々にも幅広く医療を提供しています。同院の副院長を務める大谷(おおたに) ひろみ先生は、アメリカで理学療法士の免許*を取得して長年にわたり活躍され、現在は、同院のリハビリテーション(以下、リハビリ)部門を統括しています。その取り組みと思いを伺いました。

*アメリカでの理学療法教育について:国内で大まかな教育制度は共通ですが、州ごとに教育システムと資格制度が異なります。本記事は、ニューヨーク州にて理学療法士免許を取得し勤務されていた大谷 ひろみ先生のご経験に基づき、作成しています。


現在の取り組み――リハビリ部門の統括する立場として

多職種間のスムーズな連携を目指す

2018年にアメリカから帰国後、副院長として島の病院おおたにへ戻り、現在はリハビリ部門を統括しています。当院のリハビリ部門には、理学療法士37名、作業療法士12名、言語聴覚士3名(計52名)が在籍し、病棟や外来はもちろんのこと、訪問(在宅)や短時間通所でのリハビリなどを行っています(2020年3月時点)。

 

リハビリを行う過程ではセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)、医師、看護師、栄養士、薬剤師、メディカルソーシャルワーカーなど多職種が関わるため、スムーズに連携することが非常に重要です。そのため、当院では多職種連携における課題を見つけて改善する取り組みを続けています。たとえば、効率的かつ効果的な情報共有を行うためのカンファレンス運営方法の検討、リハビリの管理進行を標準化するためのシート作成などです。さらに、これらの成果をリハビリ関連の学会などで演題として発表することで院内の学びを深め、多くの人へ伝えることに努めています。

また、診療録や計画書の記録方法を改善しました。リハビリの内容はもちろんのこと、患者さんの状態を詳細に、かつ時系列で把握できる客観的なデータを記載することでスタッフ間の情報交換を可視化し、誰が見ても分かる診療録になるよう工夫をしています。

 

窓から海を望むリハビリルーム

 

リハビリに関する情報発信を充実させる

情報の見える化を目指し、リハビリ部門のホームページの情報を充実させたり、インターフェイスを見やすくしたりする工夫には力を入れています。その成果もあり、当院のリハビリに関するページには、理学療法・作業療法・言語聴覚療法とは何か、実際にどのようなことを行うのか、リハビリの対象疾患、採用情報など、さまざまな内容が掲載されています。2017年に新築移転する前、当院は“大谷リハビリテーション病院”という名称で、リハビリに力を入れていました。そのような背景から、引き続きリハビリ部門の強みを生かした運営をしたいという思いで、このような取り組みに力を注いでいます。

 

アメリカで経験した文化を生かす取り組み

 

アメリカではNational Physical Therapy MonthというPTの月があったので、日本でも何かできないかと思い、“理学療法の日(7月17日)“に合わせて地域に貢献するためのイベントを始めました。たとえば地域の方向けに、インボディ(体成分分析装置)での測定や、介護予防や健康増進に役立つ情報の発信などを行います。このような取り組みを通じて、理学療法スタッフに、理学療法であることの誇りや自信を感じてもらいたいという狙いもあります。

 

アメリカから帰ってきたときに文化の違いを感じたことのひとつは、“会議での発言の少なさ”です。活発な意見交換や議論があってこそよりよい組織をつくることができると思い、安心して自分の意見を言える環境、雰囲気づくりを目指しました。もちろん簡単にいかない部分はありますが、まずは自分の統括するリハビリ部門から始め、ゆくゆくは病院全体が意見交換のしやすい組織となるよう頑張ります。


島を守る病院としての取り組み――副院長として

島を守る病院として、地域づくりや地域のイベントには積極的に参加しています。たとえば、35年前に父が発起人の1人としてスタートした“ヒロシマMIKANマラソン”には、今、当院からは理事長である父、院長である姉、私を含めて職員約35人が参加しています。ヒロシマMIKANマラソンは、小学生から日本陸上競技連盟登録者まで幅広い方が参加し、走行距離も1kmからハーフマラソンまで自分に合ったものを選ぶことができるので、たくさんの方に島の気持ちよい風を感じながらマラソンを楽しんでいただきたいですね。

もともと父は島の健康づくり、寝たきり防止と歩くことの推進を視野に入れ、さまざまな取り組みを行ってきました。私たちはその取り組みを受け継ぎ、地域に貢献できる存在でありたいと思っています。


“全てに感謝する”という姿勢で仕事に向き合う

私のモットーは“全てに感謝をする” こと。日本への帰国は自分で決めたことですが、実を言うと、帰国後1~2年間はどうしてもアメリカでの生活や友人が恋しくなってしまい、戻りたいと思ったことが多々ありました。そのようななかで「帰国してよかった部分はたくさんあるはずだ、今の状況に感謝しなければ」と反省しました。そこで始めたのが、朝と夜3分間ずつ、そのとき感謝していることを三つ挙げる“Gratitude Journal(感謝日記)”です。これにより、今の状況に感謝し、前向きに毎日を過ごすことができるようになりました。

Gratitude Journalを応用し、リハビリ部では、毎週月曜日の朝礼で2人ペアになって1分ずつ自分が感謝していることを話す時間を設けています。この時間を通して、感謝の気持ちに気づけることのほかに、意欲の増加や、互いの人柄や近況を知る機会が生まれ、良好なチームワークができ、職場が楽しくなることを望んでいます。


副院長としての思い、今後の目標

 

江田島市の高齢化率は43.0%(広島県内で4位)です(2019年時点)。このような地域にある病院としての役割は、高齢の方を大切にし、その方々が住み慣れた土地で健康に暮らし、そして人生の最終段階を心豊かに過ごしてもらうために尽力することではないでしょうか。

父も、そして院長である姉も、長くこの島で暮らし、島の人たちに支えられて来たという思いから、“島に恩返しをしたい”という気持ちを強く持っています。私自身は高校卒業と同時に島を出て渡米しましたので人生の半分以上がアメリカでの時間ですが、日本に戻り、患者さんたちと接するなかで、私たちが病院として何をしていくべきか、少しずつ分かってきました。日本に戻ってきた当初は文化の違いに戸惑うことも多かったのですが、少子高齢化が感じられないニューヨークにいたからこそ、日本の慢性期医療を新鮮な視点で捉えられるメリットがあるかもしれません。これからもアメリカでの経験を生かしつつ、よりよいリハビリの形、組織としてのあり方を模索し続けたいと思っています。

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