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“かかわったすべての人を幸せに”――在宅医療にかける佐々木 淳先生の思い

医療法人社団 悠翔会 理事長/悠翔会在宅クリニック稲毛 院長 佐々木 淳先生

首都圏で大規模な在宅医療を提供している医療法人社団 悠翔会(以下、悠翔会)は、“かかわったすべての人を幸せに” という理念を掲げています。悠翔会の理事長であり、悠翔会在宅クリニック稲毛 院長の佐々木 淳(ささき じゅん)先生は、医療を提供する側と受ける側の双方が幸せになれる道を模索してきました。この理念を掲げるきっかけとなった背景や、理想の在宅医療についての思い、そして未来の在宅医療を担う医療者への思いについて、お話を伺いました。


ブラック・ジャックに憧れ、医師の道へ

医師になろうと思ったきっかけは、中学3年生の夏休みに祖父の家で読んだ手塚治虫の『ブラック・ジャック』という漫画でした。“医者って格好いいな、外科医って格好いいな”と思うと同時に、“医者になるんだ、自分は”とピカーンときたのです。あの日以来、自分は医師になるものだと信じて進んできました。

医師になった今、私は診療そのものが大好きなので日々幸せを感じています。特に、患者さんとの対話の時間はそう感じます。とても厳しい状況にある患者さんが、自分が生きていることの意味や、残された時間をいかに生きるかに目を向け、つらい運命をポジティブに受け止められる場面が在宅医療の現場にはあります。中には「先生はいいわよね、元気そうで。私のつらさなんて分からないでしょ」と嘆く患者さんもいらっしゃいます。しかし最期に「先生今までありがとう。本当に私のことを思ってくれていたのね」と声をかけてくれたり、対話の中で患者さん自身が大切にしてきたことや生きる意味に気付くお手伝いができたりしたときには、“その人の人生に関わることができてよかった”と心から思います。


“かかわったすべての人を幸せに”――佐々木先生が掲げる理念の背景とは

在宅医療を通じて多くの患者さんの人生に触れるなかで、恵まれた暮らしをしてきた人だけでなく、経済的に困窮してきた人、家庭や周囲に大切にされた経験がない人など厳しい環境に身を置いてきた人がたくさんいらっしゃることを知りました。

どんな人生を歩んできた人にも、私たちが提供できる共通の価値とは何だろうと考えたとき、それはやはり“幸せ”なのだろうと思いました。患者さんがどんなに難しい状況にあっても、“自分は幸せだ”と思ってもらうことはきっとできるのではないか、そう考えました。

これまで私が家族や社会環境に恵まれて生きてこられたことには、きっと何か意味があると思っていますし、一部の人が幸せを独占するのではなく、より多くの人が自分の人生に納得してささやかでも幸せを感じて暮らしてほしいと願っています。医療行為によって幸せにできることもありますが、医療は患者さんを幸せにするための1つの道具にすぎません。医療の提供を目的にするのではなく、何のために在宅医療を行っているのかを常に意識しながら働いてほしいと思い、理念に“幸せ”という言葉を選びました。

そして、やはり1人で幸せになることは難しいことだと思うのです。患者さんもそのご家族も、一緒に仕事をする看護師も、ヘルパーも、関わる全ての人が幸せになって初めて自分自身も本当の幸せを感じられるのではないでしょうか。自分の幸せのためだけではなく、皆の幸せのために仕事をすると自分も幸せになれるということを実践して広げていけば、世の中がよくなるのではないかと考えています。


よりよい在宅医療を提供するために

在宅医療を提供することで自分も楽しい時間を過ごしてほしい

よりよい在宅医療を提供するためには基本理念の共有が大変重要であると考えています。皆が同じ方向を向くことができていれば、手段を統一せずとも、よりよい方法を皆で模索していくことができます。

また、スタッフ一人ひとりの能力、スキルや経験を最大限生かしつつチームとして目標を達成するために、楽しく仕事に取り組むことも大切です。仕事だから仕方がないと思いながら最低限のことをこなして嫌々時間を売るのではなく、日々の仕事が患者さん、社会、未来の役に立っていることを体感し、自分の成長にもプラスになることを実感しながら楽しい時間を過ごすことが重要だと考えています。そのために、患者さんからいただいた感謝の言葉を皆で共有するほか、患者さんへ満足度調査を行い、自分たちの取り組みを数値データにして可視化するなどの取り組みを行っています。

 

よりよい社会をつくる1プレーヤーでありたい

在宅医療は訪問回数を増やせば増やしただけ収入を増やせてしまう現実がありますが、お金を得ることを目的にすべきではありません。私たちの収入の出どころは社会保険料であり、それは自分たちが払っている保険料と税金が財源となっています。もし自分たちが支払う保険料や税金が高いと感じるのであれば、自分たちはその対価に見合った医療を提供できていないということになってしまいます。適切な在宅医療を提供することで患者さんの急変を防ぐことができれば、救急搬送や入院にかかる高額な医療費の発生を抑制することができ、社会保障費の適正利用にもつながります。在宅医療を担う私たちがそうした視点を持つことで、地域の1プレーヤーとしてよりよい社会に貢献できると考えています。


佐々木先生が考える理想の在宅医療

私にとっての理想の在宅医療とは、患者さんの希望を最優先に考えた医療を提供することだと考えています。命に対する考え方、人生観や価値観、物事の判断基準や優先順位は人それぞれですから、自分の基準や正義を患者さんに押し付けることなく、患者さんそれぞれの理想に対応できる医療者でありたいと願っています。そのためにはコミュニケーション能力の向上はもちろんのこと、人間として成長できるよう日々努力していかなければと感じています。

在宅医療に関わる私たちは、メスや薬で患者さんを幸せにすることはできないかもしれません。しかし、言葉の力で患者さんたちを幸せにできると私は信じています。患者さんが生きてきた意味、残された時間の大切さ、存在の尊さ、これらは言葉で伝えることができます。患者さんがうまく言葉にできずにいることを代わりに言葉にしたり、患者さん自身が気付いていないことに気付くお手伝いをしたりできることもコミュニケーションの力だと思います。決して簡単なことではありませんが、患者さんの本当の願いや気持ちを汲み取ることや、患者さんにとっての最善が何であるかを考え続け、その実現のためにサポートしていくことが大切だと考えています。


慢性期医療の魅力――未来の医療者へのメッセージ

日本において、慢性期や人生の最終段階における医療は必ずしも最適な形で提供されているとはいえないのが現状だと思います。また、認知症になったり寝たきりの状態になったりすることに対して、ネガティブな印象を持たれることが多いように思います。しかし、どのような状態になっても最後まで納得し満足して生きられる国であれば、若い人も安心して年齢を重ねることができるのはないでしょうか。そのような意味でも最適な慢性期医療や在宅医療が機能することはとても大事なことだと思います。

最適な慢性期医療や在宅医療とは何か、という点については、世界的にも定まっていないものの、だからこそ日本から慢性期医療や在宅医療のあるべき姿を発信していけるようになれば素晴らしいと思います。急性期医療と比べると地味なイメージがあるかもしれませんが、私たちが携わっているこの領域はむしろ伸びしろばかりです。まさにフロンティアになれる可能性がある領域ではないかと思いますし、私自身も日々楽しく仕事をしていますので、ぜひ皆さんにこのフィールドに来ていただければ嬉しいです。

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