• facebook
  • facebook

高齢者の自立支援に可能性――「ノルディック・ウォーキング」普及の経緯

松谷病院 理事長 松谷之義先生

ポールと呼ばれる杖を両手に持ち歩行する「ノルディック・ウォーキング」は1930年代にフィンランドでクロスカントリー選手の夏場のトレーニングとして発祥。現在では多くの国で多彩な進化を遂げています。日本では2000年介護保険制度の実施が追い風となり、超高齢社会における健康寿命の延伸という観点で注目が集まり普及が進みました。全日本ノルディック・ウォーク連盟・学術委員長を務め日本での普及に尽力する松谷 之義(まつたに ゆきよし)先生(松谷病院 理事長、日本ノルディック・ポール・ウォーク学会 名誉会長)にこれまでの経緯を伺いました。


ノルディック・ウォーキングとの出合い

私がノルディック・ウォーキングに初めて出合ったのは2003年です。1983年、自身が39歳の頃に松谷医院(当時)を開業したのですが、高齢化が急激に進む社会を見据えて新たなサービスの可能性を模索するようになり、介護老人保健施設を開設しました。その際、当時「介護先進国」と呼ばれていたフィンランドへ赴き、さまざまな施設を見学していたときに偶然出合ったのがノルディック・ウォーキングです。

フィンランドには湖や川が多く、介護施設の周りにも自然があふれていました。施設見学の際、大勢の高齢者が施設から出てこられて、2本の杖のようなものを持ちながら湖や川沿いの道を楽しそうに歩いているのを目にしました。「皆さん、何をしているのですか」と尋ねると「ノルディック・ウォーキングですよ。ポール(杖)を使うと膝や腰を守りながら歩けますし、体のバランスも保てます。歩幅も広くなり、姿勢もよくなるのです」と教えてもらったのです。そのインパクトは非常に大きいものでした。

 

フィンランドの街並み 写真:PIXTA


「高齢者の自立支援」への可能性

元々山登りやロッククライミングが趣味だったこともあり、ノルディック・ウォーキングに俄然興味が湧きました。自分がよいものを知ったら皆にも教えたい・伝えたいと感じるのは私にとって当然のことでした。

また、急激に高齢化が進む日本において高齢者の自立支援は日本全体の課題でもありましたから、その部分に対する貢献の可能性もあると感じたのです。「日本でノルディック・ウォーキングを普及する意味は大きい」と強く思い、帰国する飛行機内でもその可能性に思考をめぐらせたことを覚えています。


普及に向けた活動――研究会から学会へ

帰国後すぐに病院スタッフとノルディック・ウォーキングの可能性について検討を重ね、さらに歩行スタイルをスタンダード、アグレッシブ、ディフェンシブの3種類に分類しました(詳細は記事1をご覧ください)。

 

写真:PIXTA

 

ノルディック・ウォーキングに関する研究を重ねるなかで、普及に向けた書籍の出版や、関西を中心とした講演・教室なども行いました。初めての教室は大阪市内の大きなホテルで行い、会場には女性を中心に多くの方がお越しになりました。ご自身やご家族の健康に関心の高い方々がノルディック・ウォーキングの面白さや重要性に共感してくださるようになり、活動の規模が拡大していったのです。

また、他県の教育委員会からオファーがあり、中学校の教員が夏場に行う研修のためにノルディック・ウォーキングのイロハを教えるという機会もいただきました。この例をみても、ノルディック・ウォーキングの活用方法は多岐にわたることを実感できます。

2012年には第1回日本ノルディック・ウォーク学会学術大会が鳥取県で開催され、私も第2回学術大会(開催地:大阪府)の大会長を務めました。それ以降も全国各地で学術大会が行われ、ノルディック・ウォーキングの健康増進効果、健康寿命の延伸への可能性について学術的な議論を重ねています。元々は研究会だったものが学会に発展し、現在のようなアカデミックな活動を行えていることを非常にうれしく思います。医療者に限らず間口を広く設けている学会ですから、興味のある方はぜひご参加ください(次回の学術大会開催は今のところ未定となっています)。


時代のニーズに応じた「必要なもの」を追い求める

これまでの人生、思い付きで自身の道を選んだこともありました。医師になることも開業することも、ふとしたきっかけによる選択だったように思い返します。しかし、一度やると決めたことは必ず実行してきました。日本におけるノルディック・ウォーキングの普及もその1つです。人生、どこで何に出合うか分かりませんね。

医師として時代のニーズに応じたものを提供したいという思いがあります。たとえばがんの治療1つとっても、以前は手術が基本という頃もありましたが、現在は化学療法や薬物療法が格段に進歩していますから、それらを考慮して治療に臨む時代になりました。

今後、超高齢社会の中で必要となる「高齢者の自立支援」には何が必要か――その1つとしてノルディック・ウォーキングを今後も推進していきたいと思います。健康寿命の延伸を脅かす要因はさまざまですが、中でも「認知症」の問題は大きいです。ノルディック・ウォーキングが認知症の予防・進行抑制に寄与する可能性については種々の研究が進められていますので、今後は活動をとおしてその研究の発展に貢献したいと考えます。

記事一覧へ戻る

あなたにおすすめの記事

詳しくはこちら!慢性期医療とは?
日本慢性期医療協会について
日本慢性期医療協会
日本介護医療院協会
メディカルノート×慢性期.com