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高齢化の進展で増加するフレイルとは? ――その概要とポイント

東京都健康長寿医療センター 理事長 鳥羽研二先生

2000年に介護保険制度が実施されて以来20年が経過した今年。高齢化の進展を背景に、要介護(要支援)の認定者数は増加の一途を辿ってきました。このような流れを受けて国は、高齢者保険事業と介護予防の取り組みを推進しています。その1つが、要介護になる最大の原因とされる“フレイル”への対策です。人生100年時代といわれる現代、より長く健康な生活を送るために回避するべきフレイル。その概要とポイントについて、東京都健康長寿医療センター 理事長の鳥羽 研二(とば けんじ)先生にお話を伺いました。


フレイルとは?

加齢と慢性期疾患が重なり、外的ストレスに対して脆くなった状態

フレイルとは、加齢と慢性疾患が積み重なることで脆弱になり、病気などの外的なストレスによって生活自立度が損なわれやすくなった状態です。健康な方は病気になったとしても療養することで元の状態まで回復できますが、フレイルの方は病気(感染症など)、手術、けが(転倒など)が契機となり、元の生活機能を維持することが困難になります。75歳以上の後期高齢者が要介護となる原因の1位はフレイルです。

 

素材:PIXTA

 

身体的/精神的/社会的などいくつかの種類がある

フレイルにはいくつかの種類があります。

 

✔︎ 身体的フレイル:主に骨格筋などの運動器が脆くなった状態

✔︎ 精神的フレイル:うつなど精神的に脆くなった状態

✔︎ 社会的フレイル:社会との接点が希薄になった状態

✔︎ 認知的フレイル:身体的フレイルと認知機能障害が共存している状態

✔︎ オーラルフレイル:咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)などの口腔機能が脆くなった状態

✔︎ 排泄面のフレイル:排泄機能が脆くなった状態

✔︎ 感覚器官のフレイル:目、耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器官が脆くなった状態

 

実例を挙げてご説明すると、たとえば精神的フレイルは、パートナーとの死別を契機に元気をなくし、生活機能に支障をきたすケースがあります。また、社会的フレイルは地震などの震災発生時、顕著に現れます。自宅を失い被災者住宅や仮設住宅に移ったことで、それまで慣れ親しんでいた友人やコミュニティと離れ、外出や人との会話といった社会的なつながりが希薄になるのです。あるいは、近所で仲のよかった友人を亡くして家に閉じこもるようになる、というのも社会的フレイルの一例です。

2020年の新型コロナウイルス感染症による影響も問題になりました。全国8都府県在住の高齢の方(65-84歳)1,600名を対象にした調査によると、新型コロナウイルス感染症拡大の前後で、1週間あたりの身体活動時間はおよそ60分(約3割)も減少していました。運動の種類としてはウォーキングと自宅内での運動が多くみられましたが、外出の自粛などにより運動が継続できず、身体活動量が減少していました。これにより、要介護の方の増加が予想され問題となっているのです。

 

具体的なエピソード例

フレイルには身体的なものだけでなく、精神的、社会的などさまざまな要素があるとご説明しました。フレイルの具体的なエピソード例として以下が挙げられます。

 

【身体的フレイル】

✔︎ 牛乳の紙パックが開けにくい

✔︎ 青信号が最初からでないと渡れない気がする

✔︎ 疲れやすく、元気が出ないことがある

✔︎ 食が細くなった、または痩せてきた

 

【精神的フレイル】

✔︎ 沈み込むことがある

✔︎ 寝付きが悪い、または夜目覚める

 

【認知的フレイル】

✔︎ 物忘れが気になる

✔︎ しまい忘れが増えた

 

【社会的フレイル】

✔︎ 外出することが少なくなった

✔︎ 友人との交流が減った

 

ご自身や周りの方がこのような変化に気づいたときには、フレイルの可能性を考慮し、運動や栄養管理などで状態の改善を試みることをおすすめします。相談先としては老年科、フレイル外来などがよいでしょう。また、2020年にスタートした“フレイル健診”を活用するのもよいと思います。フレイル健診の詳細は次の記事をご覧ください。

 

素材:PIXTA

 

フレイルの頻度

高齢の方における身体的フレイルの頻度は10%前後すなわち10人に1人、プリフレイル(フレイルの前段階)に至っては40%ほどと非常に多いです。高齢になるほどフレイルの有症率は高く、70〜74歳で7.2%、75〜79歳では16%、80歳以上ではなんと34.9%で、指数関数的に増えていることが分かります。高齢化が進む我が国で、フレイルはますます増加することが予想されます。


フレイルのポイント

さまざまな要素が入り口となり、悪循環を起こす

フレイルのポイントは、“悪循環を起こす”という点です。加齢に伴う筋肉量・筋力の低下、基礎代謝や活動性の低下、低栄養、ポリファーマシー(薬物多剤併用:必要以上の薬が投与・処方されている状態)、病気やけがといった事象がそれぞれ入り口となり、互いに影響を与えることで悪循環を起こします。たとえば、高齢になり筋肉量が減ると基礎代謝が低下し、栄養状態が悪化します。すると筋力が落ちて、活動性の低下、転倒のリスク増幅などの影響があり、さらに病気が重なると体力が落ち、自立した生活を送れなくなるといった悪循環が生まれてしまうのです。自宅で暮らす高齢の方のうち3分の1は少なくとも年間に1回は転倒するといわれており、それが悪循環の入り口になる可能性が大いにあります。そのほか悪循環の入り口となりうる要素として、先ほどご説明した精神的な落ち込みや社会性の低下なども含まれます。

 

 

適切に介入・ケアを行うことで状態の改善が期待できる

フレイルとは、適切に介入・ケアを行うことで状態の改善が期待できる可逆的なものです。その方法として運動、あるいは運動と栄養管理の併用が挙げられます。フレイル、プリフレイル(フレイルの前段階)、ロバスト(健康な高齢の方)を4年間観察し、自然経過でどのような状態になるかを調べた研究があります。この研究によると、特別な介入をしなかった自然経過でも、一定数の人はフレイルからプリフレイルへ、プリフレイルからロバストへ、すなわち前段階の状態へ戻るという結果が出ました。この結果は、特別な介入がなくともモチベーションの変化などにより自然に回復する可能性があること、そして何らかの運動や栄養管理などの介入があれば、よりいっそうの回復が期待できることを示しています。

 

老年症候群の一部、特に慢性期あるいはADL(日常生活動作)の低下により二次的に生じる症状がフレイルの表現型として現れますので、臨床の現場でいかに早くフレイルの兆候に気付けるかがポイントになります。耳鼻科、精神科、神経内科、泌尿器科、代謝科、呼吸器科、眼科など、あらゆる診療科でフレイルを発見し、治療介入するチャンスがあるということです。

 

治療介入は早ければ早いほどよく、予防も重要

フレイルは、適切な治療介入によって状態の改善が期待できるとご説明しました。介入のタイミングは早ければ早いほどよいです。フレイルよりもプリフレイルから健康な状態に戻るほうが簡単ですから、まずはフレイルを予防することも重要です。次の記事では、フレイルの診断とフレイル健診、予防についてご説明します。

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