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高次脳機能障害の当事者としての経験と「起き上がり小法師」制作の経緯

Solaeさん、のんさん、やまみさん

愛媛県在住のSolae(ソラ)さんは、2009年に交通事故に遭い高次脳機能障害を抱えるも、逆境に負けず自身の経験などを元に「起き上がり小法師(こぼし)」という絵本を制作し、多くの人に勇気や安心感を届けています。松山リハビリテーション病院では、高次脳機能障害*の自助グループ「えこまち」にも参加。メンバーは得意なことを生かしてライブなどの活動を精力的に行っています。本記事では、高次脳機能障害の当事者として感じたことや困っていたこと、絵本制作までの道のりについて伺いました。【後編】

*高次脳機能障害:事故による外傷や病気などで脳が損傷した場合、言語、記憶、視空間認知(物の位置や向きを認識する能力)、思考といった神経の機能が障害されることがある。


交通事故後の心身の状態・・・高次脳機能障害のつらさ

自転車で職場から帰る途中、路地から出てきた車と衝突しました。左後頭部に強い衝撃を受け、右半身の麻痺と体の障害、高次脳機能障害が残りました。

 

診断が付き安心したが、状況を理解するのは難しい

事故の直後は高次脳機能障害という診断も付いておらず、なんだかよく分からないけれど「以前とは違う」という違和感がありました。それが長く入院していたからなのか、頭を強く打ったからなのかも分からなかったのです。しかし、事故による高次脳機能障害と診断が付いたことでほっとしました。精神的なものではなく脳の機能が障害されているのだと分かり、安心する気持ちが大きかったです。

ただ、高次脳機能障害が具体的にどのようなものかを理解することは簡単ではありません。「事故に遭う前の自分に戻りたい。戻れるはずだ」と思いながら、そうならない現状にもどかしさを感じていました。

 

見た目では分からず周囲が理解しにくい場合も

人とのコミュニケーションで困ることは多かったです。高次脳機能障害は見た目では分かりません。周りの人から「前と全然変わらないじゃない」と言われたり、一方で何かミスをすれば「障害のせいね」と言われたりしました。障害について説明したときに「年を取れば皆そうなるよね」「物忘れは誰でもするから」と言われることもあり、「通常の物忘れとは明らかに違うのに……」ともどかしい思いをしたこともあります。

また自分は普通に会話しているつもりなのに、急に相手が怒り出してしまうことがありました。当時の私の感覚としては、目の前に何か物があると、連想ゲームのように次々と言葉を発していました。もしかしたらその言葉の中に、相手を怒らせたり傷つけたりするようなものが含まれていたのかもしれません。意図せず相手を怒らせてしまったときもあり、とても寂しい思いをしました。

 

写真:PIXTA


生活やコミュニケーションにおける工夫

あらかじめ障害や今の状態を伝えておく

そのようなコミュニケーション上の支障が生じていたので、人と接する際は事前に障害のことやできること・できないことを伝えるようになりました。見た目は変わらなくても前と同じ状態ではないことや、何が苦手なのかをあらかじめ伝えることは非常に重要だと感じています。もちろん伝えても相手が全部を理解してくれるとは限りませんが、伝えないよりはずっとコミュニケーションが楽になるはずです。

 

同じ障害を抱える人たちとの交流

もっとも幸運だったのは、高次脳機能障害をきちんと理解している医師や医療関係者に出会えたことでしょう。適切にサポートしてくださったおかげで今があります。

とても助かったことの1つが、松山リハビリテーション病院で行う「高次脳機能障害の自助グループ」の存在を教えてくださったことです。同じ障害を抱えている方たちとの出会いの場を得ることができました。それぞれ症状の重さや特徴は違いますが、抱えているもどかしさやつらさには共通点も多く、お互いの苦しさが理解できます。だからこそ安心して会話ができるし、笑顔になれる機会も増えました。

 

好きなことから「できること探し」を少しずつ

函館の実家近くの病院に通っていたとき、待合室で高次脳機能障害の女性に出会いました。脳出血が原因だったそうで、直後は医師から「今後、普通に話すことは難しいでしょう」と言われたといいます。しかしその方はカラオケが好きで、友人が毎日のようにカラオケに連れて行ってくれるうちに歌を歌えるようになり、徐々に意思疎通するのに十分な会話までできるようになったそうです。その話を聞いたときに「自分もできることからやろう。絵本をもう一度読めるようになりたい」と強く思い、自助グループの訓練の際に周りの方も巻き込んで読み聞かせの練習をするようになったのです。そして今では再び読み聞かせをできるようになりました。

好きなこと・できることに取り組むうちに回復するという例を知り、自分が実際にそのような経験をして、これは誰にでも当てはまることではないかと思いました。好きなことから「できること探し」は高次脳機能障害のある方にとって非常に重要なことだと確信しています。


「起き上がり小法師」の制作まで

母に宛てた手紙が絵本の原型に

起き上がり小法師の元になったのは、母に宛てた絵手紙です。ある日息子が出張で北海道に行くと言うので、葉書に絵を描き「起き上がり小法師、何度転んでも必ず起き上がる」と一筆添えたものを絵手紙として息子に託しました。息子はサプライズで祖母を訪問し、スマホで私に実況中継しながら絵手紙を届けてくれました。

その直後、母に届けた絵手紙に思いを馳せているときに起き上がり小法師の物語が次々と頭に浮かびノートに走り書きしたものが、絵本の原型になったのです。物語を書いているときは、自身の経験やえこまちメンバーから聞いた話が思い出されました。自分たちと同じように不慮の事故でつらい思いをしている方や、想定外の出来事に出合い苦しんでいる方に読んでほしい、元気になってほしいと思いながら書きました。

 

朗読用の物語から「絵本」に

当時の担当医から朗読用のオリジナルの物語を書くという宿題をもらっていたので、ワードで打った文章を提出しました。えこまちメンバーの前で披露したとき、ある方が涙をポロポロと流しながら聴いてくれたことを覚えています。

このように、最初は絵本ではなく朗読用の物語だったのです。その後、院内のPT(理学療法士・ジャパハリネットgt:ギター)の中田 衛樹(なかた ひろき)さんがBGMを作曲してくださり、中田さんの演奏するギターに合わせて朗読をするようになりました。キワニス(米国発祥の民間奉仕団体)の活動のなかでライブをする際にも朗読を行いました。

 

愛媛キワニスクラブ 活動の様子

 

活動を続けるうちに「絵本にしたらどうか」という話が出てきて、イベントでお世話になった方を頼ってクラウドファンディングのお話に発展したのです。イラストレーターのいしいくみこさんの絵はいくつかの候補の中から選びました。優しい色合いや絵のタッチに惹かれ、いしいさんが挿絵を描いてくださることを非常にうれしく思いました。

 

ソラさん作の絵本「起き上がり小法師」

 

自分の手を離れ、みんなの「小法師ちゃん」へ

県内外のメディアにも取り上げていただき、自費出版としては異例の新装出版に至りました。ありがたいことに、1冊購入した後に「友人にあげたい」と何冊かまとめて買っていただく方もいらっしゃいます。

物語を書いたときは「自分たちと同じような経験をした方を元気にしたい」という気持ちが大きかったのですが、実際に絵本ができてみると障害の有無は関係なく、「すごく励まされた」「元気になった」「背中を押された気がした」というお声をいただくようになりました。誰かを元気にできるなら、この絵本を作って本当によかったと思います。必要としている人の元へ「小法師ちゃん」が旅するように、これからもこの絵本が届くとうれしいです。


学びと挑戦・・・毎日を楽しく

現在は、ウェブ会議システムを利用して全国の牧師さんが主催する勉強会や読書会などに参加しています。このような学びの機会を継続的に持ち続けたいと思います。

また最近は、文字起こしのボランティアをするのが楽しいです。京都の牧師さんが礼拝説教集を出版されていて、音声データを文字起こしするスタッフを募集しており、それに手を挙げたのです。最初は2~3か月かけて1本の音源の文字起こしを終わらせるという感じでしたが、今では徐々に慣れてきて、1か月に2本こなせるようになりました。脳のトレーニングにもなりますし、上達するのが分かってとても楽しいです。ほかにも、絵本の編集・校正のお手伝いをする機会をいただきました。昔から好きだった分野でさまざまな挑戦ができることに感謝しながら、これからも楽しく毎日を過ごしたいと思います。

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