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陵北病院における口腔ケアのポイント−医科・歯科連携による口腔機能管理

医療法人 永寿会 陵北病院 院長 田中裕之先生、副院長 阪口英夫先生

口腔環境は全身の健康にかかわることや、口腔清掃は要介護の高齢者に起こりやすい誤嚥性肺炎の予防に有効であることから、医療・介護の領域で口腔ケアを含めた口腔機能管理への注目が高まっています。

医療法人 永寿会 陵北病院では、入院患者さんに対して、徹底した口腔機能管理を提供しています。同院院長の田中裕之先生と、副院長の阪口英夫先生(歯科医師)に、医科・歯科連携による口腔機能管理のポイントを伺いました。


陵北病院における口腔機能管理はどのように行われているのか

日常的な口腔ケアと併行して、さらに詳細な口腔機能管理を行う

口腔ケアには、大きく2種類あります。1つは、主に看護師や介護者が行う「日常的に行われる、口腔衛生を保つためのケア」です。もう1つは、歯科医師と歯科衛生士が行う「日常的に行われる口腔ケアよりもさらに詳細な口腔ケア(口腔衛生管理)で、口腔の異常・疾病の発見、口腔機能の維持を目的としたあらゆる処置・訓練」を指します。後者を、口腔機能管理と呼びます。

 

高齢で要介護の方は、ご自身で口の不調を訴えることができない場合があります。また、意識障害があり、経管栄養をしている場合には、さらに口腔内の状態は悪化しやすい傾向にあります。そのため、定期的に口の中を清潔にすることに加えて、口腔機能管理を行うことが重要です。

 

当院では週に1回、口腔機能管理として、歯科医師や歯科衛生士が院内をまわり、患者さんの口腔を細かいところまで清潔にし、口まわりの異常がないか確認します。さらに、月に1回ミールラウンドを実施し、経口摂取している方を含めて食事の状態をチェックしています。

 

  • 入院患者さんに対して継続的な口腔機能管理を提供する

当院には、4名の歯科医師(常勤2名、非常勤2名)と、6名の歯科衛生士(常勤5名、非常勤1名)が在籍しています。

一般的に「歯科」といえば、外来で通院して行う虫歯の治療をイメージされる方が多いかと思います。しかし、当院の歯科診療部の場合は、虫歯の治療よりも、食べる機能を重視した診療を行っています。その一環として、陵北病院の411床+介護老人保健施設「ゆうむ」の100床に入院(入所)されている患者さんを対象に、口腔の清潔や機能を保つための継続的な口腔機能管理を提供しています。

*2019年2月時点


  • 強固な医科・歯科連携−経口摂取の継続を目指して

当院に入院される患者さんの多くは、他施設から転院してきます。入院時には、全症例に対して医師と歯科医師が診察を行い、個々の患者さんに適切な栄養形態を選択します。

ここでいう「栄養形態」とは、栄養摂取の経路です。栄養形態は、まず経口摂取と経管栄養とに大きく分かれます。さらに、経管栄養は、経鼻栄養、胃ろう、および中心静脈栄養に細分化されます。

 

【栄養形態の種類】

✔経口摂取

✔経管栄養

 └ 経鼻栄養

 └ 胃ろう

 └ 中心静脈栄養

 

入院時の診察では、まず現在の栄養形態が適切であるかを検証し、さらに、「何らかの形で経口摂取ができるのではないか」という視点を持って、診察します。大切なことは、できるだけ経口摂取の継続を目指すことです。もちろん、経口摂取が難しいこともありますが、可能性はゼロではありません。


嚥下造影装置、経鼻内視鏡などの検査機器を活用

適切な栄養形態を選択するためには、摂食・嚥下状態を正しく評価する必要があります。当院では、嚥下造影用装置や経鼻内視鏡といった検査機器を活用し、患者さんの摂食・嚥下状態を判定しています。


  • 1日に1食でも経口摂取することを目指す

当院には、言語聴覚士(ST)が6名在籍し、摂食・嚥下の訓練を実施しています。できるだけ経口摂取を目指しますが、3食全てを経口摂取にすることが難しいこともあります。そのような場合には、「一口でも食べること」が大切であるという考えに基づき、経管栄養を続けながら、1日に1食でも経口摂取ができるように努めています。

*2019年2月時点

 

  • 終末期の患者さんに対する口腔ケア

介護療養病床は、患者さんが終末期を穏やかに過ごし、最期のときを迎える場所としての機能を持っています。当院では、終末期に入った患者さんに対し、頻回に介入して口腔衛生管理を行い、最期の瞬間まで口腔環境を良好に保つことをポリシーとしています。

病気の種類にもよりますが、亡くなる直前には、さまざまなところで出血が起こります。出血は口の中でも起こるため、出血に対応した方法が必要です。そのような場合には、歯科衛生士による口腔衛生管理が重要となります。

 


経営の視点から−徹底した口腔ケアを実践するためには

  • 介護療養病床であることによって継続した口腔ケアが可能になる

医科・歯科連携による徹底した口腔ケアを実践できるポイントは、運営面にもあります。

当院は、ベッドの多くが介護療養病床です。もし、ベッドが医療療養病床であれば、早期退院に向けた経過的な医療措置が目的となり、継続的な入院はできなくなってしまいます。その点、介護療養病床ならば、医療区分がつかなくても、要介護の状態であれば、患者さんは継続的に入院できます。

 

しかし現在、国の方針として、医療と介護を明確に区分することを目的に療養病床の廃止が進められています。そのため当院は、これまでと変わらず患者さんに継続的なケアを行うために、介護医療院への転換を予定しています。


なぜ経口摂取できなくなるのか?−その典型例について

入院を繰り返すうちに経口摂取が困難になることがある

経口摂取が難しくなるケースとして、1つの典型例をご紹介します。それは、急性期病院で治療を受け、病状が安定して回復期や慢性期の病院へ移り、そこから自宅へ戻る(あるいは在宅医療を受ける)というサイクルを何回か繰り返すうちに、経口摂取ができなくなる例です。

たとえば、高齢の方が肺炎で急性期病院に運ばれた場合、2週間ほど禁食と経鼻栄養を行うことがあります。すると、肺炎は治ったとしても、栄養状態が悪化して、体力や嚥下機能が低下します。これを繰り返すうちに、徐々に経口摂取が難しくなっていきます。

 

当院には、経口摂取が難しくなった高齢の患者さんが、他施設から多数紹介されてきます。八王子エリアでも、医師と歯科医師が専門的に入院患者さんの口腔ケアを行っている病院は当院のほかにはあまりなく、近隣の病院からは経口摂取に関して、「最後の砦」のように認識していただいているという自負があります。


口腔ケアにかける思い

田中裕之先生より

当院で口腔ケアを始めたのは、胃ろうの手術のために、創部の感染症を予防することを目的として実施したことがきっかけです。当時は、口からカテーテルを入れて腹部にアプローチする方法だったため、口腔内の細菌が創感染の原因になることもあったのです。

口腔ケアを徹底して行ったところ、胃ろうの造設術における創部の感染症が、著しく減少しました。そのときに「これはすごい!」と口腔ケアの有効性を実感し、入院されている患者さん全例に対して、しっかりと口腔ケアを行うことに決めました。

 

そして、口腔ケアにもっと力を入れたいと考えていた頃、精力的に口腔ケアを実践されている阪口英夫先生に出会いました。阪口先生には当院における口腔ケアを構築していただき、現在は、摂食・嚥下や栄養形態の検証を含めて、幅広く活動していただいています。


  • 阪口英夫先生より
  • 当院のように、入院患者さんに徹底した口腔ケアを行っている病院は、全国的に見ても少ないと思います。2014年に陵北病院に移ってから5年間、地道な努力がようやく実り、今では地域のなかで「口腔ケアといえば陵北病院」と認識していただけるようになりました。また、看護師や介護職など病院スタッフの口腔ケアへの意識も非常に高まりました。これからも田中先生と共に、徹底した口腔ケアを続けていきたいと考えています。

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