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適切な排尿ケア——基本となる考え方と実践のポイント

医療法人天真会 南高井病院 院長 西尾俊治先生

排尿という行為は、私たちの日常生活に深く関わるものです。QOL(生活の質)に関わる排尿ケアを適切に行うことは非常に重要なテーマでありながら、これまで医療の現場では不必要な尿道カテーテルの留置が多く行われている状況がありました。

これまでに多くの患者さんに対して尿道カテーテルの抜去を試み、適切な排尿ケアに尽力してきた西尾 俊治(にしお しゅんじ)先生(医療法人天真会 南高井病院 院長)に、適切な排尿ケアの基本となる考え方と実践のポイントを伺いました。


適切な排尿ケア——実践のポイント

職員全員が「不必要な尿道カテーテルを抜去する」という発想を持つ

まずは「不必要な尿道カテーテルを抜く」という発想を持つことが重要です。抜去した後に適切に残尿測定と観察をすれば、多くの場合、大きなトラブルは起こりません。

1人の医師や看護師の力だけで排尿ケアを遂行することは難しいため、リハビリテーション(以下、リハビリ)のスタッフや栄養士、事務職など院内の多職種を巻き込み、皆が協力して排尿ケアに取り組むことが重要です。当院では、職員全員が“不必要な尿道カテーテルの問題”に関する院内研修を受け、適切な排尿ケアの重要性を理解する機会をつくっています。

 

排尿ケアチーム

適切な排尿ケア推進の中心的な役割を担うのが、排尿ケアチームです。排尿ケアチームは、下部尿路機能障害の診療経験を有する医師や看護師、理学療法士などで構成されます。当院では、8名の看護師を中心に排尿ケアチームを構成し、さらに各病棟に最低1名以上のリンクナース*を配置しています(2020年9月時点)。

排尿ケアチームを中心に、院内スタッフに対する残尿測定方法の教育や、膀胱内尿量24時間モニタリングの結果をふまえた排尿ケア計画書の作成などを行います。また、排尿日誌に排尿時刻・排尿量・排尿状態(尿失禁がないかなど)の記録を残し、患者さんごとの排尿パターンを把握することも重要です。

*リンクナース:専門チームと病棟看護師をつなぐ役割を担う看護師のこと。

 

南高井病院の排尿ケアチーム

 

不必要な尿道カテーテルの抜去

急性期から当院に移ってきた患者さんについては、まず診療情報を確認し、尿道カテーテルが留置されていた場合にはなるべく早く抜去するよう努めています。大体の目安は転院してから1週間以内、多くの場合は2〜3日のうちに抜去します。

抜去するまでの2日間ほどは、現在の食事内容でどのくらいの排尿があるかを確認しておきます。また、抜去してから数日は残尿測定を行い、尿閉や発熱がないかを観察することが重要です。残尿測定では、お腹に当てて超音波で画像診断を行う医療機器を使います。

現在、残尿測定ができる電気機器も登場しています。医療機器は医師・看護師しか使えませんが、電気機器であればリハビリスタッフや介護職の方でも扱えるため、在宅医療の現場などで残尿測定が必要な際に有用です。

 

尿道カテーテル抜去後の適切な排泄方法をリハビリスタッフと相談

尿道カテーテルを抜去する際にはリハビリスタッフとも相談し、抜去後におむつとポータブルトイレのどちらを使うのか、患者さんがベッドの左右どちらから降りやすいのか、部分介助でトイレまでの誘導が可能かといった点を確認し、適切な形での排泄方法を検討します。尿道カテーテルの抜去は重要ですが、決して“抜去したら終わり”ではないということです。

 

尿道カテーテルを抜去できない症例について理解する

尿道カテーテルを抜いても、多くの場合トラブルは起こりません。しかし、中には尿道カテーテルを抜去できないケースもあります。たとえば、脊髄損傷の場合、膀胱の残尿によって自律神経過反射が起こり、血圧が上昇してしまいます。これにより心筋梗塞や脳卒中をきたし、最悪の場合には命に関わることもあるため、注意が必要です。また、カテーテルを抜去した後に一滴も尿が出ない場合は“尿閉”の可能性があります。前立腺肥大症などで尿閉を起こしている場合には、一旦尿道カテーテルを留置し直して、先に前立腺肥大症の治療を行います。

通常、収縮時の膀胱は親指くらいの大きさですが、尿が溜まると風船のように膨らみます。長年糖尿病を患い神経が障害されている場合は、膀胱に尿が大量に溜まっても尿意がなく、結果的に尿が腎臓に逆流して腎盂腎炎(じんうじんえん)や腎機能障害を起こしたり、膀胱が破裂してしまったりする可能性があるため、注意が必要です。そのような場合は、ご自身の手を使える方なら自己導尿(一定の時間ごとに自分で尿の出口に管を入れ、尿を膀胱から排出する方法)、あるいは尿道カテーテルの留置を行う必要があります。

 

このように尿道カテーテルの抜去が難しい症例もありますので、それらについて理解を深めましょう。多くの場合は抜去しても問題ありませんが、抜去してから数日は残尿測定などを行うことでしっかりと状態を観察し、抜去しても大丈夫か・異常がないかを見極めることが重要です。


西尾 俊治先生が排尿ケアの重要性に気づいたきっかけ

南高井病院に入職したのは2007年のことです。勤務初日にある看護師が私のところへやってきて、「当院は尿道カテーテルの留置がとても多いです。不必要なカテーテルは抜きたいし、院内感染予防の観点からも抜去を進めたい」と言いました。その相談に対して私は「では明日から抜きましょう」と答えながら、抜去が困難な症例に対する知識を伝えつつ、積極的に抜去を進めようと決めました。

まず病棟スタッフに、尿道カテーテルを抜くという発想を持つこと、抜去後に残尿量をきちんと観察する重要性などを伝え、残尿量を測定する機械をそろえました。そして積極的に抜去を進めていくと、想定よりもはるかに多くの症例で抜去が成功したのです。それから毎年およそ100例ずつ抜去を試みてきました。

 

それから10年ほど経ち、2016年の診療報酬改定では“排尿自立指導料”が新設されました。これにより全国の病院で排尿ケア・排尿自立を進める動きが高まり、講義などに呼ばれて、当院で実践してきた排尿ケアのノウハウなどをお伝えする機会が増えました。

現在では職員全員が適切な排尿ケアに対する意識を持ち、看護師たちが積極的に「この尿道カテーテル抜きませんか」と提案する文化ができています。

 

南高井病院の外観


適切な排尿ケアを進めたいと考える方へ

ご自分の医療機関、施設などで適切な排尿ケアを進めたいと考える方々には、以下の資料を参考に取り組んでいただければと思います。

 

【排尿ケアに関して参考にするべき資料・ガイドライン】

✔︎ 一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会『排尿自立支援加算、外来排尿自立指導料に関する手引き』照林社

✔︎ 鈴木基文(監修),青木芳隆(監修),日本排尿デザイン研究所(編集)『みんなで取り組む排尿管理 チームづくりから実践指導事例まで』日本医療企画

✔︎ 泌尿器科領域の治療標準化に関する研究班『EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン』株式会社じほう

✔︎ 日本排尿機能学会『過活動膀胱ガイドライン第2版』リッチヒルメディカル株式会社

✔︎ 日本排尿機能学会,日本泌尿器科学会『女性下部尿路症状診療ガイドライン』リッチヒルメディカル株式会社

✔︎ 日本泌尿器科学会『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』リッチヒルメディカル株式会社

 

泌尿器科に関する質問があればぜひ近くにいる泌尿器科医を頼りにしてください。5年以上の経験を持つ泌尿器科医なら、過活動膀胱、尿失禁、尿閉などの排尿障害についてある程度の知識はあると思います。


排尿ケアに関する今後の展望と目標

全国で介護を必要とする人の数は年々増加しており、要介護度4〜5の方は合わせて130万人を超えています(2017年データ)。その中に、不必要な尿道カテーテルを留置している人が多くいるかもしれません。そのため、現在は在宅医療の中で排尿自立支援加算をとることができるよう、関係各所に協力を仰いでいるところです。2020年代のうちに“在宅排尿自立支援加算”が新設されることを目指しています。

また、将来的には、膀胱内の状態や排尿のタイミングをアプリなどで客観的に測定できるシステム、あるいは排尿のタイミングを察知してトイレ誘導をサポートするロボットなどが実用化されることを期待しています。このような“膀胱の声を聞く”仕組みができれば、排尿の“自立”をさらに促進できるでしょう。

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