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認知症の当事者と家族に対するサポート体制――その現状と課題【2章】

丹野智文さま

近年、高齢化の進展とともに認知症の患者数は増加を続けており、2025年頃には高齢の方(65歳以上)の認知症有病率は20%を超える(5人に1人が認知症)と推計されています。一般的に認知症は高齢の方に起こりやすい病気ですが、一部は若年の方(65歳未満)でも発症することがあります。このような“若年性認知症”の患者さんは日本に約4万人弱いるといわれていますが、周囲の理解や社会的支援が不足しているのが現状です。39歳の頃に若年性アルツハイマー型認知症と診断され、現在は同じような状況の方々のサポートを続ける丹野 智文(たんの ともふみ)さんに、認知症の本人と家族に対するサポート体制の現状と課題について伺いました。【2章】

 

※本記事は、2020年12月2日(水)、3日(木)に開催された日本慢性期医療学会のプログラム『2040地域共生社会の中で認知症の人とどう生きるか』における丹野さんの講演をまとめたものです。

※厚生労働省による若年性認知症ハンドブックはこちらをご覧ください。


よい支援者に巡り合えるかどうかが、その後を左右する

2013年に認知症と診断されてから現在までに、たくさんの認知症当事者に出会いました。皆さん、病名を告げられた際には「なぜ自分が認知症になってしまったのか」と戸惑い、どのように生活を続けていくか調べようとしても、重度になってからの介護や看取りの話ばかりが出てきて、気持ちが落ち込むと言います。

また、その後よい支援者に巡り合いよい環境で過ごせるかどうかが、本人の生きやすさや病気の進み具合に大きく影響します。私が出会ってきた人たちの多くは環境が悪いことでうつ状態になってしまったり、全てを諦めてしまったりしていました。それでもお話をしていくうちに前向きになり、自分のことを自分で決めて行動するようになりました。その後は、症状が進んだり増えたりしても生き生きと暮らしているのです。

 

出会った認知症の当事者の方と仲間になり、同じような状況の人たちをサポートしたり当事者の声を届けたりする活動をすることがあります。しかし仲間の中には、家族の勧めで急に施設に入所したり、精神病院に入院したりしてしまう人がいました。なぜ精神病院に入る必要があるのでしょうか。私と一緒に活動しているときには、多少の症状があっても生活のうえでは支障がなかったのに。本人の状況を周囲が理解し、適切なサポートがあれば問題なく暮らせる場合もあるはずです。

 

写真:PIXTA

 

仲間が入院している病院に会いに行ったこともあります。てっきり認知症の症状をよくするための入院だと思っていたのに、逆に症状が悪化していることがありました。表情もなくなり、全てを諦めている様子でした。皆、「ここから出たい」「家に帰りたい」と話します。中には、薬漬けのような状態になっている人も見てきました。

仲間の話を聞いたところ、入院するときに、なぜ入院が必要か、いつまで入院するのか、どのような治療を行うのかについて、本人には全く説明がなかったといいます。誰であっても、何も説明されずに急に病院への入院が決まったら不安や恐怖を感じませんか。「認知症の人はどうせ忘れるから話しても仕方がない」と思っているのでしょうか。病院からは家族への説明だけで、本人への説明はない。どうしてこのようなことが起きているのか、とても疑問に感じます。


診断直後のサポートが足りていない現状

多くの認知症当事者と話をして気付いたのは、当事者・家族にとって診断直後のサポート体制が不十分であるということです。病気が重度になってからの介護保険のことや看取りの話ばかりで、“どのように生活を続けるか”という視点の情報やサポートがないため家族も混乱してしまい、当事者の行動を制限してしまうのだと思います。また、本当なら介護は必要ないのに、家族が介護をすることになり、当事者も家族も疲弊してしまうケースも多いです。

このような状況を避けるためにも、診断直後から家族への継続的なサポートが必要ではないでしょうか。サポートといっても、家族の困りごとを解決するのではありません。支援者が家族の困りごとだけを聞いてしまうと、認知症当事者の困りごとは一切解決できないからです。

家族の困りごとを解決しようとして、“当事者と家族を離す(施設や病院に入院させる)”ことがあります。しかしそれは本当に必要なことでしょうか。あくまでも、当事者の生活をよりよくすることがサポートの中心であってほしいです。認知症になり一番困っているのは当事者なのです。認知症でもできることを一生懸命やりたいと思っているのに、できることを奪われ、諦めてきた現実があります。

 

今までは認知症当事者が声をあげることが難しかった。しかし最近では少しずつ、「自分のことは自分で決める」と意見を言えるようになってきました。

これからは、認知症当事者の声を聞き、本人ができることを支えていく。そのような共通認識を持って診断後のサポートに取り組む必要があると考えています。必要のない介護で家族が疲弊し、当事者になんの説明も伺いもなく精神病院に入院させられてしまうようなことがないようにしてほしいです。

大切なことは、認知症について周囲が理解すること、そして何より“相手が嫌なことはしない”という視点です。認知症を1つの障害として捉え、本人がなるべく自立して日常生活を支障なく送るためには何が必要か、という視点でサポート体制をつくることが必要なのかもしれません。

 

※お話の続きはこちらの記事をご覧ください。

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