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褥瘡に対する治療――“除圧、栄養、局所治療”の3本柱の重要性

東京労災病院 副院長 林健先生

寝たきりの方などに多い皮膚疾患の褥瘡(じょくそう)は、皮膚を圧迫することによって血流が滞り、進行すると皮膚に穴が開いてしまう病気です。褥瘡治療を専門とする東京労災病院副院長・皮膚科部長の林 健(はやし けん)先生は、褥瘡の診療では“3つの原則”を守ることが重要だと言います。

今回は、褥瘡とはどのような病気か述べるとともに、診療における3原則や、慢性期医療に携わる医療従事者へのメッセージを林先生に伺いました。


褥瘡とはどのような病気?

褥瘡のメカニズム

皮膚に圧が加わると、血管が圧迫され、血流が一時的に途絶えます。この状態が長く続くと、血液が体の隅々まで十分に行き渡らなくなり、末梢(まっしょう)に酸素や栄養を運ぶ役割が失われます。それによって組織の一部が壊死することで、褥瘡ができます。

褥瘡に“お年寄りの病気”というイメージを持っている方は多いかもしれません。しかし、実は急性期病院にも多くの褥瘡の患者さんがいらっしゃいます。広い意味では循環不全により生じる病気ですが、短期間でも発症します。たとえば、体位を固定して手術を行うと、数時間で褥瘡ができることもあります。

 

褥瘡の原因

褥瘡は、体力が落ち、低栄養状態にある高齢の方に生じやすい病気です。特に、るい痩(そう)といって病的に痩せている方の、骨が突出しているところにできやすいことが分かっています。

そのほかの要因としては、高齢になり意思表示がうまくできないことも挙げられます。通常、皮膚に物理的な圧力が加わると痛みを感じ、化学的な刺激が加わるとかゆみを感じますが、高齢の方はそういったことを上手に表現できなくなってきます。褥瘡のサインである痛みが出てもうまく説明できず、治療やケアが遅れてしまう場合もあります。


褥瘡のステージ分類

褥瘡は、潰瘍の深さによって進行度(ステージ)が分かれています。まず、時間が経っても消えない赤みがある場合は褥瘡と考えます(ステージⅠ)。進行すると穴が開いた状態になり、皮膚の浅いところに損傷が見られます(ステージⅡ)。組織の深いところに損傷ができる場合(ステージⅢ)や、皮下の骨や関節に損傷が及ぶ場合(ステージⅣ)もあります。なお、急にできた褥瘡では、表面より奥のほうの損傷が大きいことも多く、その場合は〝深部損傷褥瘡疑い”(〈suspected〉deep tissue injury)と分類されます。


褥瘡診療における3原則

褥瘡の診療では、進行度に応じて適切な治療やケアを行います。重要なのは、予防の段階から“除圧、栄養、局所治療”の3原則を徹底することです。

 

除圧について

まずは、専用のクッションや低反発のマットレスを使用して除圧を行います。特に、低栄養状態で痩せている患者さんのように褥瘡のリスクが高い方には、できるだけ早い段階でエアマットを使うなどの対応で褥瘡予防に努めます。

当院では、1m以上の長さがあるスネーク型クッションをよく使っています。足の間に挟んだり背中側に置いたりして、患者さんの体位に合わせてさまざまな部位を1本でサポートできるタイプです。マットレスも、最近ではセンサーが内蔵されている製品や、AI による自動体圧分散やポジショニングが可能な製品などが登場しています。専用のものは高価ですが、よいポジショニングを行うためには患者さんに合った適切な補助用具を使用することが大事だと考えています。

 

栄養について

褥瘡の原因となる低栄養状態を避けるためには、栄養管理が欠かせません。栄養補給(熱量やたんぱく質)に加えて、アミノ酸、ビタミン、微量元素(亜鉛や銅など)を摂取することが大切です。当院では、コラーゲンペプチドや亜鉛が含まれているCP10という栄養補助食品をおすすめしています。フルーツ味で飲みやすく、ゼリーやドリンクのタイプも選べるため、毎日飲んでも続けやすいと思います。

 

局所治療について

褥瘡の治療は、保存的治療と外科的治療に大別されます。浅い褥瘡に対しては、主に創傷被覆材(ドレッシング材)や軟膏療法を中心とした保存的治療が行われます。

深い褥瘡が生じている場合は、壊死組織の除去を行います。外科的治療としてはハサミを使って取り除く方法、保存的治療としては壊死組織を溶かす軟膏を用いる方法があります。軟膏の種類は褥瘡の状態によって選択し、当院ではスルファジアジン銀を中心に使っています。

壊死組織を取り除いたら、肉芽(にくげ)と呼ばれる良性の組織がつくられるよう促すために、軟膏や創傷被覆材を用います。軟膏は、血流を増す作用があるアルプロスタジル アルファデクスや、ブクラデシンナトリウムなどを選択します。

感染が著しく大量の浸出液が見られる場合は、十分に洗浄するとともに壊死組織をしっかりと取り除き、ヨウ素含有製剤などを用いて感染をコントロールします。


慢性期医療における褥瘡治療のポイント

3原則を守り、チームでサポートすること

高齢者施設や慢性期疾患を扱う施設では、軟膏や創傷被覆材を適切に選択し、除圧を図り、栄養状態のコントロールを行うことで、褥瘡は回復に向かっていくと思います。

当院では、入院中の褥瘡患者さん全員をしっかりと診られるよう、褥瘡対策チームが毎週の回診を行っています。スタッフは褥瘡治療の価値観を共有し、互いに意見を言い合って、褥瘡治療の質の向上に努めています。慢性期医療においても、さまざまな職種のスタッフが褥瘡の患者さんに関わり、医師も各分野からのアドバイスを得て治療にあたっていると思います。

その中でも、私が褥瘡治療において特に重視しているのは、栄養士の役割です。私も日本臨床栄養代謝学会が主催するTNT(Total nutrition therapy) を受講しましたが、患者さんの栄養状態を改善するには、医師の知識だけでは困難だと感じています。患者さん一人ひとりに合った栄養管理については栄養士に任せ、よりよい治療につなげたいと考えています。

 

適切なスキンケアを行うこと

褥瘡予防において、皮膚の洗浄や保湿クリームの使用によるスキンケアは有効とされています。ハイドレーション(水分補給)により湿潤環境を保てるよう、医療用のラップに浸出液を溜めて治りを促す、いわゆるラップ療法と呼ばれる方法も普及しています。ただし、デハイドレーション(脱水)が体によくないのと同様、オーバーハイドレーション(水和)といって皮膚がふやけた状態もよくありません。

患部を密閉して湿潤させると皮膚のバリア機能が壊れ、薬が浸透しやすくなります。一方で、バリア機能が壊れたところからは細菌やアレルゲンも入ってきやすくなるため、病気が悪化する恐れもあります。ラップ療法は、感染症の発生に十分注意し、慎重に適応を検討することが大切です。

基本的には、十分に洗浄することが重要です。褥瘡の患者さんでも、できるだけ毎日入浴し、せっけんで洗うようにしてください。当院では、手術の翌日からシャワーを浴びることをおすすめしています。

 

困ったときは専門家に相談を

患者さんによって、ガス壊疽*などがあり回復が難しいと思われる場合でも、入院して一つひとつ問題点を解決することで快方に向かう可能性は十分にあります。困ったときは、褥瘡学会のWEBサイトに掲載されている“褥瘡受入病院一覧 ”から、患者さんの受け入れが可能な病院を探して受診していただければと思います。

*ガス壊疽:ガス産生菌により筋肉組織に起こる感染症のこと


慢性期医療に携わる医療従事者へのメッセージ

 

褥瘡診療のポイントは、除圧に努め、栄養状態を改善し、正しい局所治療を行うという、3原則を徹底して守ることに尽きます。治療しているのに悪化してしまう場合は、病気が悪循環に陥っていると考えられます。先に述べたように、褥瘡学会の“褥瘡受入病院一覧”を参照のうえ、専門の病院に相談するとよいと思います。

当院の場合、65歳未満など比較的若い方や、手術により回復が期待できる方には、積極的に手術を行っています。高齢の方では手術するのが難しい場合もありますが、よりよい治療やケアのアドバイスができると思いますので、お困りのことがあればご相談ください。


褥瘡の患者さんと暮らすご家族へのメッセージ

褥瘡の患者さんは、ご自宅や高齢者施設で治療を受けながら生活しているケースが多く、ご家族がケアに携わっていることもあります。そこで、ご家族にお伝えしたいのは、褥瘡は人生の最後のほうに起こり得る病気だけれども回復する可能性は十分にあるということです。ぜひ、治療を諦めないでいただければと思います。快方に向かうためには、本記事で述べた3原則を守ることが重要であり、医師や看護師の指導どおりにケアをすることがポイントです。

褥瘡の患者さんのケアにあたっているとき、患部が熱を持ったり、浸出液が臭ったりすることに気付いたら、褥瘡を専門とする病院に相談することをおすすめいたします。

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