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“江田島が大好き、患者さんは家族” 島の医療を支える大谷まり先生の思い

島の病院おおたに 院長 大谷まり先生

広島港より高速艇で30分、悠然と広がる広島湾に浮かぶ江田島(えたじま)。その風景に溶け込むように佇む“島の病院おおたに”は、1943年の発足以来、病床機能を少しずつ変えながら島の人々の医療を支えています。「この島を愛してやまない」と話す同院 院長の大谷 まり(おおたに まり)先生に、これまでのあゆみや、島の医療の魅力についてお話を伺いました。


バイオリニストに憧れるも自身の実力に限界を感じ、医師に方向転換

幼い頃は医師になる気はなく、母からは医師になることを反対されていました。母は、医師だった祖母の忙しく大変な姿を見ていたので、同じ思いを娘にさせたくなかったのでしょう。

3歳から母のすすめでバイオリンを習い始め、将来は音楽の道に進むつもりでした。しかし中学3年生の頃、自分の実力に限界を感じ始めました。天賦の才に恵まれた人の演奏を聴けば聴くほどに、同じように練習しても何かが違うと思い知ったのです。そのとき「バイオリンを生涯の仕事にするのは無理があるが、趣味で続けることはできる」と考えました。さらに子どもの頃に憧れの存在であった音楽家であり医師でもあるシュバイツアーを思い、病院を継ぐことを考え、医師という将来像を描き始めました。医師になろうと決めたのは、忙しそうな父を手伝えるかなという漠然とした想像からでもあります。

 

高校3年間はオーケストラの部活に明け暮れ、ほとんど勉強せずに過ごしました。最終的に、両親が支えたくれた2年間の浪人生活を経て久留米大学医学部に合格することができました。


いつかは必ず江田島に帰ろうと心に決めていた

父は「久留米大学に残って、頑張れ」と背中を押してくれました。いつかは江田島に帰ってきて病院を手伝うつもりでした。そのため、“子どもも大人も診る可能性がある”という視点で診療科を選びました。その結果が小児外科だったのです。小児外科では、まず外科一般のことを勉強します。そして、小児も含めた救命救急への配属や麻酔に関する勉強もしました。いうなれば、子どもも診られる外科医という立ち位置でしょうか。今でいう総合診療医に近いかもしれません。

同級生には「どうしてそんなマイナーな診療科に行くの」と言われたこともありましたが、結果的に多くのことを学ばせてもらい、医師としての幅広い知見が蓄積されました。あのとき小児外科を選択して本当によかったと思います。


分からないことは正直に伝え、専門家に意見を聞くことがポリシー

記事1でお話ししたように、江田島に戻ってきたのは35歳のときです。大学や関連病院で幅広い経験をしたとはいえ、まだまだ若造でしたから、自分で診て分からないことは患者さんに正直に伝え、分からないときにはその分野の専門家に聞いて勉強するようにしました。分からないことをそのままにしないというのは当然のことですが、分かることと分からないことを正直に伝えることで、患者さんはむしろ私を信頼してくれることが多いように思います。このポリシーは今でも変わっていません。

戻ってきて数年は、恥ずかしながら学生の頃よりも勉強しました。たとえば感染症、予防接種、皮膚科学や漢方など、それまで触れていなかった分野は特にひたすら勉強しました。患者さんから多くのことを吸収し、学ばせてもらったという思いが強いです。


“人が好き”であることは、医療従事者にとって何より大切な資質

 

 “人が好き”という私の性質から考えると、医師の仕事はとても合っていると思います。逆にいえば、人に興味がないと医療従事者の仕事は務まらないでしょう。

看護学校で講義するときには、「人に興味がない人は帰ったほうがいいよ」と話を始めます。人に興味を持ち、“患者さんがこの状態になっているのはなぜだろう”と疑問を持ち、“患者さんがどうすれば楽になるか”を考えることが大切ではないでしょうか。この思いを持ち続けることはとても重要なことだと思います。その積み重ねができれば、きっとこの仕事は楽しいし、成長もできると信じています。


“先生に会えてよかった”という患者さんの気持ちが、大きな喜びになる

患者さんは不安な気持ちを抱えて当院に来られることがあるので、単に薬を出したり治療したりするだけではなく、しっかりとお話を聞き、患者さんが納得できるようなケアをすることも私たちの大切な役目だと思っています。問診はとても重要です。患者さんが困っていることは、きちんと問診をすれば解決の糸口は見つかりますから。“検査に頼らず問診でどこまで患者さんの状態を理解するか”が、医師としての腕の見せ所だと思っています。

 

患者さんから「先生に話を聞いてもらってよかった」「先生に会えてよかった」などの声を聞くと大きな喜びを感じます。患者さんが満足してくれるのを感じる瞬間が嬉しくて、この仕事を続けているのかもしれません。


島での医療はやりがいがある。患者さんを家族のように思い、よりいっそう使命感に駆られる

 

一人の患者さんに長く関われることが、島での医療におけるひとつの大きな特徴です。たとえば子どもだった患者さんが大人になっても通ってくれたり、親子二世代、三世代にわたって利用してくれるご家族がいたりします。

私自身も中学まで江田島で育っているので、患者さんは皆家族のように思えますし、患者さんも私たちを家族のように慕ってくれます。単なる医師と患者さんの関係ではない、家族のような関係になるので、よりいっそう、患者さんを大切に思う気持ちと使命感が強くなるのです。患者さんには、診察を通して多くのことを教えてもらいました。ですから、恩返ししたいという気持ちも大きいです。

 

現在は、在宅医療を含めてプライマリケア、慢性期医療に携わっています。毎日違うことが起きて、患者さんの全身を診る必要があるこの仕事は一見大変そうに見えるかもしれませんが、私にとっては非常に勉強になります。少ないながらも持ちうる知識を駆使して臨むプライマリケアは、飽きることがありません。

慢性期医療を担うスタッフ、特に看護師には「あなたたちは本当に素晴らしい」といつも話しています。いくつもの病気を抱え、急変することもある慢性期の患者さんを診て、適切な看護とケアを行うというのは、簡単なことではありません。ですから、慢性期医療を担う方々には、もっともっと自信を持って欲しいです。私は心から尊敬しています。


自ら地域貢献できるスタッフ、視野の広い医師を育てていきたい

 

当院で働いているスタッフには、感謝の気持ちでいっぱいです。そのうえで、私が抱く病院のあり方や地域貢献への思いを知ってもらえるように心がけています。病院が行うから地域貢献に取り組むというよりも、地域の患者さんを家族のように思い、自ら地域貢献に協力する姿勢を持てるスタッフを育てたいと思っています。

また、地域医療を学ぶために来ている研修医には、「専門分野ばかりを見て視野を狭めないように」と伝えています。医師として、人間としての視野を広げること。そのためには、勉強だけでなく、遊んだり趣味を持ったり、人と交流することが大切だと話しています。たくさんの経験を積んで、視野の広い素敵な医師になってくれたら嬉しいです。

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