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日本の慢性期医療を海外へ——インドネシアでのクリニック開設と運営

平成医療福祉グループ 医療政策マネジャー 坂上祐樹先生

全国100以上の医療福祉施設を展開する平成医療福祉グループは、“絶対に見捨てない”医療と福祉を目指し、患者さんが急性期の治療を終えて自宅での生活に復帰するための診療、体制、環境づくりに取り組んでいます(2019年11月時点)。同グループは、2019年9月にインドネシアの南ジャカルタに、リハビリを提供する通院型クリニックを開設しました。

クリニック開設までの経緯や、日本から海外へ慢性期医療を輸出することの意味について、海外事業部 部長の坂上祐樹(さかがみゆうき)先生にお話を伺います。


インドネシアにクリニックを開設したきっかけと経緯

海外から看護、介護人材の候補者を受け入れてきた実績

平成医療福祉グループでは、EPA*(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)に基づき、2009年頃から看護師候補者および介護福祉士候補者を海外から受け入れてきました。

グループ全体で2018年までに、インドネシア、フィリピン、ベトナムから、累計392名の候補者を受け入れてきた実績があります。国別にみると、インドネシアからの方が200名以上と一番多いです(2019年11月時点)。

 

*EPA:2以上の国(または地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品およびサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、たとえば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定


帰国していく方々の受け入れ先、活躍の場をつくりたいという思い

 

 

EPAで海外から来る候補者の方々は、技術や日本語を学びながら、日本の国家資格の取得を目指します。ところが、結果的に国家資格を取得できない場合、そのまま日本に滞在することはできず、帰国しなければなりません。また、本人のさまざまな事情で帰国せざるを得ないという方もいます。その場合、日本で国家資格を取得していたとしても、本国ではそのまま資格が有効になるわけではないので、帰国後の看護師、介護職のキャリアにおいてあまり評価されないという話を聞きました。そのため、看護師や介護職に就かずに日系の一般企業に就職し、滞在中に取得した日本語を生かして通訳になる方もいるそうです。

このように、せっかく日本で看護や介護のことを学んだのに、さまざまな事情で帰国を余儀なくされる方々が一定数います。そのような方々の受け入れ先をつくり、日本で学んだ看護や介護の知識を生かして活躍できる環境を整えたいと考えたことが、インドネシアでのクリニック開設につながる最初のきっかけです。

 

リハビリのノウハウを伝えるべく、通院型のクリニック開設を目指した

手探りで調査を進めるなかで、インドネシアでは死因の第1位が脳卒中(2007年データ)であることが分かりました。しかし、急性期医療の進歩に比べて慢性期医療は浸透しておらず、“リハビリ”という概念すらも根付いていないような状況だったのです。

そのことに気づいたとき、平成医療福祉グループの歩んできた道を振り返りました。そして、私たちがリハビリを提供する拠点となる場所をインドネシアにつくり、リハビリのノウハウを伝えることで、インドネシアの人々に慢性期医療の大切さを伝えることができると考えました。

 

できるだけインドネシアの人々に向けての雇用を生むためにも、はじめは入院機能を持つ病院をつくろうと思っていました。しかし、日本人がインドネシアで土地を購入することは難しく、土地の権利関係などが複雑だったため、いきなり大きな病院を建てるのではなく、まずは小規模の通院型クリニックから始めることにしました。


インドネシアでのクリニック運営——現地の様子や手応え

2019年9月、インドネシアの南ジャカルタにHMW Rehabilitation Clinicを開設しました。南ジャカルタというエリアは閑静な新興住宅街で、日本でいうところの青山、表参道のようなイメージです。

オープニングセレモニーの会場

 

スタッフの構成としては、院長を含む医師2名、看護師が2名、セラピストが3名、事務員が1名で、全てインドネシアの方です(2019年11月時点)。

看護師のうち1人は、日本語が得意なインドネシア人スタッフを日本から配置転換し、あちらで責任者を務めてもらっています。日本人スタッフについては、就労ビザの取得が難しいこともあり、日本とインドネシアを行き来する形で勤務してもらっています。双方のスタッフは、テレビ会議などで定期的にコミュニケーションをとっています。さらに、今後はインドネシアのみならず、ミャンマーやバングラデシュからの技能実習生を迎える予定です。

 

HMW Rehabilitation Clinicの外観

 

インドネシアの医療介護事情を少しご説明しますと、高齢者ケアのほとんどをご家族が任されており、また、2014年に施行されたBPJS Healthという医療保険制度において、保険の給付対象にリハビリは含まれていません。そのため、リハビリは自費診療となります。

開設から間もない今、当クリニックには、少しずつ患者さんが来院されている状況です。インドネシアは車文化なので、通院よりも往診(訪問)を望む患者さんがいらっしゃることも分かりました。ですから、将来的には訪問リハビリ、訪問介護の部分も展開していけたらと考えています。

 

HMW Rehabilitation Clinicのリハビリルーム


日本で培った知見を伝え、インドネシアの医療レベルの向上につなげたい

インドネシアでは、全人口のうち高齢者(65歳以上)が占める割合は5.3%(2017年データ)ですが、今後、徐々に高齢化が進むと推測されています。そのようななかで、日本で培われた慢性期医療、高齢者医療、そしてリハビリの知見をインドネシアに伝えることができれば、いま困っている患者さんを助けることができることはもちろん、将来的にインドネシアの医療レベルの向上につながるだろうと思います。

現在は、日本の企業とコラボレートし、リハビリ機器や介護用品、リハビリロボットなどの輸出と展開を計画しています。リハビリには栄養状態の改善も必要なので、そのような視点からもアプローチすることを考えています。


これからの展望と目標

私たちには、リハビリを行うことで助けられる方、豊かな人生を送ることができる方に、適切なリハビリを届けたいという強い思いがあります。

まずは、クリニックの運営を軌道に乗せ、リハビリを必要としている患者さんのニーズに応えたいです。そして、最終的にはインドネシアの医療水準を向上させることにつなげたいです。

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