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排便障害に対する治療/ケアの重要性と現状の課題、最新トピックス

自治医科大学 味村俊樹先生

便秘や便失禁などの「排便障害」は、生命に直接かかわることはありませんが、患者さんの日常生活や心理面に多大な影響を及ぼします。そのため、原因や状況に応じた適切な治療、ケアが望まれます。

排便障害治療を専門とする味村俊樹(みむら としき)先生に、排便障害に対する治療/ケアの重要性や現状の課題、最新のトピックスについて、お話を伺いました。


そもそも排便障害とは?−便秘と便失禁の定義について

排便障害(排便機能障害)とは、「正常な排便が障害された状態」で、主な症状に便秘、便失禁、下痢、頻回便などがあります。本日は、「便秘」と「便失禁」についてお話します。

 

  • 便秘の定義「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」

「便秘」という言葉は、一般的に広く知られています。しかし、実際のところ排便習慣には個人差が大きく、患者さんが便秘という言葉で意味する内容はさまざまです。

私は、2010年頃より「便秘」を、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義してきました。この定義は、2017年の慢性便秘症診療ガイドラインなどで採用されています。

 

  • 便失禁の定義「無意識または自分の意思に反して肛門から便がもれる症状」

便失禁は、「無意識または自分の意思に反して肛門から便がもれる症状」と定義されます。世界的には便失禁の定義がいくつか存在しており、便失禁とガス失禁を区別するかどうかという点について、国際的に統一されたコンセンサスは得られていません。しかし、日本では、現状、便失禁とガス失禁を合わせて「肛門失禁」と定義しています。


排便障害に対するケアの重要性、これからの展望

  • 高齢者や障害を持つ方々の排便障害に対する治療、ケアの必要性は高い

排泄(排尿、排便)は、私たち人間の生活に密接に関係していますから、非常に重要なことです。特に、高齢者や障害を持っている方は排便障害を起こしやすいため、それらに対する治療、ケアの必要性は高いと考えます。

 

私は長い間、排便障害を専門的に診療してきました。昔は、排便障害をきちんと診療できる医師や病院が不足しており、便失禁などで困っている方がいても、治療にたどり着けるチャンスが少なかったのです。実際に、「どこへ行っても診てもらえず、味村先生の存在を知って、ここに来ました」と口にする方もいらっしゃいました。

その頃に比べたら、排便障害に関する社会的な理解は広がったように感じています。背景には、インターネットなどによる情報の浸透や、便秘症/便失禁の診療ガイドラインに基づく診療の発展があるのでしょう。

 

しかし、日本における排便障害の治療のレベルは、決して高いとはいえません。これからはほかの医師たちと協力しながら、医学生への講義などを通じて、排便障害の治療の水準を向上させていきたいと思っています。


慢性期医療と排泄ケア−現状の課題とは?

  • 慢性期病棟における排泄ケアの指針となるガイドラインが必要

外来に来られる患者さんに対する排便障害の治療と、慢性期病棟に入院されている患者さん(あるいは介護施設に入居されている方など)に対する排泄ケアでは、異なる部分が多いと思います。

一例ですが、人生の最終段階において自分でご飯を食べられなくなった方への排泄ケアは、通常の排便障害の治療と同じではありません。寝たきりで経管栄養をしている方なら、自然と排便回数は減少します。それを便秘と診断し、本来排出すべき便がないにもかかわらず下剤で治療をするのは、適切とはいえません。

 

このような視点から、慢性期病棟では、通常の食事をしている方と同じ基準を当てはめて排便障害を治療するべきではありません。課題として、慢性期病棟における排泄ケアの指針となるガイドラインが必要であると考えています。

 

その際にポイントとなるのは、この3点です。

 

1)なぜ便が出ないのか

2)本当に出すべき便はあるのか

3)出すべき便はどこにあるのか

 

出すべき便がないならば、無理に出す必要はありません。不適切なケアは、排便障害を逆に悪化させたり新たに発生させてしまったりする危険性があります。つまり、正しい評価に基づいて排泄ケアをする必要があるのです。

また、正しい評価に基づいて個別に最適な排泄ケアを行うためには、十分なマンパワーが必要です。介護人材の確保が難しいといわれる現代において、効率よくかつ適切に排泄ケアを行うことは、重要な課題といえるでしょう。


排便障害の治療に関する取り組み、最新トピックス

  • 「経肛門的洗腸療法」の普及に力をいれている

現在、「経肛門的洗腸療法」の普及に力を入れています。経肛門的洗腸療法とは、1〜2日に1回、300〜1,000mlの微温湯を肛門から直腸に注入し、直腸から下行結腸の中の便を洗い流す治療法です。

経肛門的洗腸療法を1回行うと、直腸から下行結腸までの便を排出できるため、新たな便が直腸に到達するまでの1〜2日間、便秘の症状や便失禁を防ぐことができます。患者さん自身が排便時間や場所をコントロールでき、さらに、それまで排便に費やしていた時間や便秘症状や便失禁のために思い悩んでいた時間が短縮できるというメリットがあります。

 

経肛門的洗腸療法は、2018年4月に脊髄障害を原因とする難治性排便障害(直腸手術後の患者を除く)に対して保険収載されました。現時点では、便秘と便失禁の両症状を有することが多い脊髄障害の患者さんだけが保険適用ですが、本療法は、ほかの原因による難治性便失禁や慢性便秘症にも有用なので、より多くの患者さんが恩恵を受けられるように、保険適用拡大に向けて、現在、積極的に活動しています。

 

  • 便秘治療において「大腸通過時間検査」が注目を集めている

先ほど、正しい評価に基づいて排泄ケアを行うべきであると申し上げました。その意味では、排便回数減少型の便秘症の診療においては、「大腸通過時間検査」が有用かつ極めて重要です。

大腸通過時間検査とは、X線不透過性マーカーを用いて、口から肛門までの輸送時間を調べる検査です。もっとも簡便な方法では、20個のマーカーを含むカプセル1個を内服した5日後に腹部X線検査を行います。20個中4個以上のマーカーが大腸内に残っていれば「大腸通過遅延型」、3個以下なら「大腸通過正常型」と診断します。

 

 

大腸通過時間検査によって、本来体外に排出すべき糞便が大腸に過度に溜まっているのかどうかを正確に評価できます。しかしながら、現在のところ日本では保険収載されていないため、現在、我々専門家は、大腸通過時間検査が保険収載されるように積極的に活動しています。

*大腸内視鏡検査の標準的な費用・・・およそ13,000円

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