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高齢者の排便障害(便秘、便失禁)の特徴とケアのポイントとは?

自治医科大学 味村俊樹先生

便秘や便失禁などの「排便障害」は、加齢と共に増加します。高齢化が進展する日本において、排便障害に対する治療/ケアの重要性はますます高まっています。

日本における排便障害治療の第一人者である味村俊樹(みむら としき)先生に、高齢者の排便障害の特徴とポイントについて、お話を伺いました。


高齢者の排便障害−その特徴とは?

便秘や便失禁などの排便障害は、加齢と共に増加します。

高齢者の排便障害には、以下のとおり、いくつかの特徴があります。

 

✔加齢に伴う直腸知覚低下による便秘/便失禁

✔加齢に伴う筋力低下による便秘/便失禁

✔認知症に伴う便失禁

✔刺激性下剤による便失禁

 

  • (1)直腸知覚低下による便秘・便失禁

高齢になると、体のさまざまな感覚能力が低下し、直腸の知覚も低下します。通常、S状結腸にある便が直腸に移動し、排出されることで排便が行われますが、高齢になり直腸の感覚が低下すると、S状結腸の便が直腸に到達しても、便意を感じないことが起こり得ます。すると、直腸に便がたまってしまうのです。

直腸に便があるのに便を排出できないことを「便排出障害」といい、これは便秘の原因の一つです。便排出障害のまま過ごしていると、直腸に大量に便が貯留して栓をした状態になりますが、これを直腸糞便塞栓(ふんべんそくせん)といいます。

そして、直腸糞便塞栓の状態が続くと、直腸にたまった便が肛門から漏れ出て漏出性便失禁の原因になります。これは、その発生原因から、「溢流性(いつりゅうせい)便失禁」ともいわれます。

 

つまり、高齢者の場合には、直腸知覚低下によって便秘になり、その便秘が原因となって便失禁が起こる可能性があるのです。実際に、高齢の患者さんが便失禁を主訴として病院を受診された場合、診察してみると直腸に大量に便がたまっており、便秘と便失禁のどちらも起きていることがあります。


  • 直腸知覚低下による便秘、便失禁に対する治療

直腸知覚低下による便秘、便失禁に対しては、排便習慣指導を行います。排便習慣指導では、朝食や夕食をとってからおよそ30分後に、便意を感じていなくてもトイレに行き、便が出やすい姿勢(前傾姿勢など)で排便を試みるよう指導します。食物が胃に入ると、大蠕動(だいぜんどう:S状結腸に蓄えられた便が直腸に一気に移動する大腸の動き)が起きやすくなるので、直腸に便がある可能性が高いのです。

 

ただし、このような排便習慣指導による治療は、直腸知覚低下がない方(つまり直腸に便があれば便意を感じる方)の場合には推奨できません。なぜなら、便意を感じていないということは直腸に便はないので、いきんでも便が出ないのは当然なのですが、直腸に便がないにもかかわらず排便しようといきむことを繰り返していると、全身に無駄に力を入れる習慣がついてしまいます。すると、排便時に肛門括約筋にも力を入れて肛門を締めてしまい、直腸に便があってもうまく排出できない機能性便排出障害になってしまう可能性があるからです。

 

排便習慣指導で排便を試みても便をうまく出せないときには、朝の排便動作時にレシカルボン坐剤などを用いて強制的に排便し、直腸を空の状態にします。定期的に直腸を空にすることで、徐々に便意が戻ってくることがあります。

 

  • (2)加齢に伴う筋力低下による便秘/便失禁

直腸知覚低下がない場合でも、加齢による筋力低下が原因で、便秘や便失禁が起こることがあります。この場合の便秘は、大蠕動の機能が低下するか(大腸通過遅延型便秘といいます)、排便時のいきむ力の低下(腹筋の筋力低下)で起こります(機能性便排出障害といいます)。一方、この場合の便失禁は、肛門を自動的に締めてくれている括約筋(内肛門括約筋といいます)の筋力が加齢によって低下し、直腸内にある便の色がついた粘液が、重力によって肛門を通り下着に漏れ出てしまう症状「漏出性(ろうしゅつせい)便失禁」を指します。つまり、便意を感じていないにもかかわらず下着が汚れてしまうのです。

 

便失禁というと、近年メディアなどで取り上げられることの多い「切迫性便失禁」をイメージされる方も多いかと思いますが、切迫性便失禁は、便意を感じてトイレに急いでも、間に合わずに便がもれてしまう症状で、漏出性便失禁とは別のものです。

 

  • 加齢に伴う筋力低下による便秘/便失禁に対する治療

加齢に伴う大蠕動の機能低下による便秘の治療では、下剤でコントロールを試みます。

その際には、非刺激性の酸化マグネシウム、カサンスラノールとジオクチルソジウムスルホサクシネートの合剤(商品名:ビーマス®)、ルビプロストン(商品名:アミティーザ®)、リナクロチド(商品名:リンゼス®)などを用います。また最近では、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール®)やラクツロース(商品名:ラグノス®NF経口ゼリー)なども登場していますし、刺激性の要素は少しありますが、エロビキシバット(商品名:グーフィス®)もあります。

 

  • (3)認知症に伴う便失禁

認知症の方が、トイレに行って排便するという社会通念を失っている場合、トイレ以外の場所で排便をしたり、自分で便意を訴えられないために下着の中に排便してしまったりすることがあります。これも現象としては便失禁で、本人はあまり困っていませんが、社会衛生的に問題となるため周囲の介護者が困りますので、そのような場合、幼児に対するトイレトレーニングと同様の排便誘導トレーニングが有効な場合があります。

 

  • 認知症に伴う便失禁に対する排便誘導トレーニング

認知症に伴う便失禁が認められる場合、折に触れてトイレに行くよう促し、直腸にあるかも知れない便を定期的に出すように試みます。直腸に便がなければ、便失禁は起こりません。目安として、毎食後30分程度たってからトイレに誘導して排便動作を促し、1日1回以上トイレで排便ができれば、便失禁をある程度防げると考えます。

 

  • (4)刺激性下剤による便失禁

下剤にはさまざまな種類があり、「刺激性下剤」と「非刺激性下剤」に大別できます。

刺激性下剤は、大腸を強力に刺激する下剤です。一方、非刺激性下剤は、大腸を刺激せずに、便が出やすい環境をつくる下剤です。

 

刺激性下剤は大腸を強く刺激するため、薬を飲んでから効果が現れるまでの時間が短いという特徴がありますが、同時に、薬が効きすぎて下痢になってしまうことがあります。

一方、便を軟らかくして排便を促す作用のある「酸化マグネシウム」などの非刺激性下剤は、薬を飲んでから効果が現れるまでに時間がかかりますが、生理的な反応を促すという意味で、刺激性下剤よりも自然な治療法といえるでしょう。

 

刺激性下剤は、非刺激性下剤などを使ったにもかかわらず排便が得られない時に、応急処置的に使うべきであると考えています。

 

便秘の患者さんにおける下剤の間違った使い方の典型例としては、「下剤を飲むとクセになる」とか「下剤を飲んでいると次第に効かなくなる」という思い込みによって、普段は下剤を飲まないように我慢し、週に1回だけ刺激性下剤を飲んで、たまった便を一気に出そうとする方法です。

このような場合、数日間たまった便は肛門に向かうにつれて硬くなっているので、それを刺激性下剤で出そうとするために硬便で肛門が切れたり、複数回の排便の後には下痢便となって便失禁につながったりすることがあります。特に高齢者の場合、もともと肛門括約筋の筋力低下によって便失禁が起こりやすいため、下剤の使い方を間違うと、便失禁につながりやすいのです。


高齢者の排便障害に対する治療の難しさ

  • 便秘と便失禁が同時に起きている例も多くみられる

高齢者は、加齢に伴ってさまざまな生理機能が低下しているため、便秘だけ/便失禁だけというシンプルな例のほかに、両者が同時に起きていたり、便秘が便失禁の原因になっていたりと、複雑な例も多々あります。つまり、便秘と便失禁はまったく別の原因で起こりますが、それらが一人の患者さんに混在して発生している可能性があるのです。

 

高齢者で、便秘と便失禁が同時に起こっている場合、便秘を治そうと思って下剤を使えば、(もともと肛門括約筋の筋力低下で便が漏れやすいため)便失禁になってしまう可能性があります。このように、便秘と便失禁どちらも改善させるための薬の調整が必要となるので、治療の難易度は上がります。

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