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地域包括ケアシステムの実現には何が必要か――“地域共生社会”を目指して

埼玉県立大学 理事長 田中滋先生

西欧・北欧諸国などと同様、高齢者増が進展する日本。団塊の世代が75歳以上となり始める2022年以降、医療・介護の需要がさらに高まると見込まれています。このようななかで各地の自治体が推進する“地域包括ケアシステム”を実現するには、どのようなことが必要なのでしょうか。また、地域包括ケアシステムを活用した“地域共生社会”をも視野に入れ、今私たちに何ができるのか、地域包括ケアシステムの構築に携わってきた埼玉県立大学 理事長の田中 滋(たなか しげる)先生にお話を伺いました。


地域包括ケアシステムを活用した“地域共生社会”とは

地域共生社会とは、まだ学問的にも政策的にも、共通の理解に到達しているとは言えません。私は次のように考えています。まず、安易な標語「つながり合い」や「丸ごと」が想起させる甘美な生活共同体幻想とは異なります。ましてや「皆が同じ目標を持っていつも互いに支え合うべき」という考え方は、「加わらない人は仲間ではない」という社会的排除に結び付きやすく、賛成できません。そうではなく、赤ちゃんから高齢の方まで、障害の有無を問わず、現在の国籍や生まれた国、さらには性的指向・性自認を問わず、尊厳を持って暮らせる、多様性を認め合うゆるやかな発想に基づく多元的な社会を意味すると捉えたい。

いずれにせよ、地域共生社会の主人公は地域の住民です。大切なことは、地域の生活をつくるのは自分たちであり、ときには自分が“支えられ”、ときには“支える”側に立つ場合も両方あるとの意識です。地域包括ケア研究会では、活動の初年度から、こうした自発的な“お互い様”意識に基づく行動を”互助“と名付けています。互助は、大昔から友人間・親族間・地域で自然発生的に行われてきた助け合いと、ボランティアやNPO、クラウドファンディングなどを含む現代的活動に分けられます。

地域包括ケアシステムを活用した地域共生社会においては、制度や地域の助けを受ける必要性に直面した時はそれらを大いに利用しつつも、意欲があれば地域の活動に自ら参加し、人々を支える側にもなれる舞台を奨励する柔軟な発想が求められます。

 

写真:PIXTA


地域ごとに異なる状況と課題

各地の自治体が推進する地域包括ケアシステムについては、その基盤たるそれぞれの地域・生活圏域ごとに、歴史や風土と文化、人口の年齢構成、医療・介護資源の充足度などが千差万別です。たとえば、400年の歴史を持つ城下町中心部と、高度経済成長期以降に開発された郊外の住宅地では、住民の付き合いの濃淡や文化も違えば、直面する課題も異なります。そのため、地域包括ケアシステムの実現には、各地域・各生活圏域における課題を正しく把握するとともに、自分たちが使える、あるいは掘り起こせる資源で何ができるのか、そうした分析を元に積極的に行動に移す必要があるでしょう。

まず役所は黒子の役を担う姿が望まれます。そのうえで、あくまでも住民を主役と位置づけた何らかの推進主体をつくる必要があります。ただ「集まれ」と呼びかけるだけでは人々の参加は望めないので、仕掛けづくりも重要です。たとえば地域包括支援センターが入った建物の会議室やコミュニティカフェなどの通いの場所などを活用し、住民が集まりやすい環境をつくる方法もとれます。なお、誰かしら仕掛け人がいたほうがうまくいくと分かっていますが、それは誰が担ってもよいのです。勤務先での役割を終えて地域生活に戻った元気な高齢の方、町内会や商店街代表、地域の医師や看護師、病院や介護事業所の従事者、地元の高校や大学の教職員と学生生徒など、いろいろな人に期待しましょう。


今、必要とされる地域包括ケアのマネジメント

 

地域包括ケアシステム構築を加速させるために、今、何が必要なのでしょうか。それは地域包括ケアを“マネジメント”する技術や仕組みです。自治体が、住民を含む地域の関係者の中に「地域を耕そう(地域包括ケアシステムを推進しよう)」という意欲を持った人を増やし、その人たちが地域包括ケアシステムの推進に能動的に関わる仕組みをつくるためには、当該地域の情報を取得し、課題を見つける技術・知識を持たなくてはなりません。

このような考えに基づき、埼玉県立大学は、県内の市町村を支援するための地域包括ケアマネジメント支援を実施しています。具体的には、2020年9月に“地域包括ケアマネジメント支援部門”を開設し、以下を提供しています。

 

✔︎ データ分析支援(県内における市町村単位の分析結果資料の提供)

✔︎ 事業マネジメント支援(市町村が取り組みたい事業を支援)

✔︎ 地域づくりに関わる関係者や民間企業の連携支援

✔︎ 国の施策動向に関する情報を提供

 

データなどの提供や支援についての相談は無償で実施しており、その後、実際に行う支援内容によっては費用が発生します。埼玉県内の市町村が対象ですが、地域包括ケアの推進や実践に関してぜひご相談ください。

*地域包括ケアマネジメント支援部門について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

また、埼玉県立大学では地域包括ケアに関わる人材育成にも力を注いでいます。今、特に必要とされているのが、多様な関係者を巻き込んで地域の会合などを開催し、地域の課題を見つけるための議論を進める“ファシリテーター”の役割です。そのような人材を育成するべく、定期的な集合型研修や、地域包括ケアを推進するためのネットワーク会議など支援体制の整備に加え、現場で直接支援を行う実践を進めています。集合型研修では、2018年より“地域包括ケア推進セミナー”を実施し、自分たちの地域における課題を見つけて解決に導く方法の共有や、実践するための人材育成に取り組んできました。


地域包括ケアシステムの実現に向けて先進的に活動している事例

地域包括ケアシステムの実現に向けて先進的に行動してきた地域として、愛知県豊明市、神奈川県川崎市、千葉県柏市、東京都武蔵野市、三重県名張市などを始め、今ではたくさんの自治体が挙げられます。

たとえば豊明市では、総人口と生産年齢人口の減少や、後期高齢者の増加という背景があるなか、豊明団地の“けやきいきいきプロジェクト”では、藤田医科大学、UR都市機構、豊明市の3者が協定を締結し、関係機関のネットワークを構築する一方、医療介護の情報共有ツールの導入や、介護予防事業を充実させるなどの工夫を推進しています。

 

愛知県豊明市の風景 写真:PIXTA

 

川崎市の例では、将来、急激に高齢化が進む人口構造の変化を想定し、全ての地域住民を対象とする独自の推進ビジョンを策定しました。学識経験者、保健・医療・福祉関係団体、地域の経済団体、企業、市民の代表などで構成される“川崎市地域包括ケアシステム検討協議委員会”を設置し、さらに、市営住宅の2か所をモデル地域として、独居の高齢の方に対する見守りや買い物支援、閉じ込もり防止に向けたサロン運営などの仕組みづくりを展開しています。

 

これまでに経験したことのない超高齢社会、その中でこのように先進的に挑戦する努力は当然ながら簡単ではありません。地域ごとに課題や資源が異なるため、ほかの地域の成果を単純に真似すればうまくいかない可能性が高い。ただ、これまでの事例を見ると、生活支援に関しては地域のビジネスの力も活用する方策は役に立つようです。また、地域の教育機関などさまざまな分野を含め、住民が能動的に参加する、多様な主体の連携が重要なのかもしれません。


地域の医療機関・介護事業者にできること

地域包括ケアシステムの核はやはり医療・介護連携です。その中心を担う組織が、医療機関や介護事業者にほかなりません。地域包括ケアシステムには「おおむね在宅、ときどき施設(入院)」という標語がありますが、この実現には医療・介護の連携が欠かせません。

診療報酬・介護報酬上でも、連携を強化するための点数・単価設定がなされています。たとえば、医療機関に関しては、地域内の連携や在宅復帰の機能を推進する観点から在宅復帰率の見直しが行われ、また、介護老人保健施設に関しては、以前よりも在宅復帰・在宅療養の支援や、訪問リハビリテーションの提供などの機能を評価するようになりました。今後の医療機関、特に急性期病院は、患者さんが入院治療を受けている間、および慢性期病院との連携だけではなく、在宅に戻ったり、介護施設に移ったりしたときにどのように暮らすのかに関わる“生活”の部分まで意識する必要が不可欠な時代です。

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