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地域に愛される病院であり続けるために――光風園病院の歴史と今後の展望

光風園病院 院長 木下祐介先生

山口県下関市に位置する光風園病院は、慢性期医療と回復期リハビリテーションを提供する病院です。1940年の開設以来、病気やけがをされた患者さんが安心して穏やかに療養できるよう支えてきました。下関医療圏全体で見ると、病床数の飽和や、労働人口の減少など、厳しい状況が病院を取り巻いています。そのようななかで、同院は、患者さんにとって必要な医療を正しく提供する病院であり続けようと、よりよいサービスの提供に努めています。

光風園病院の院長である木下祐介先生に、同院のあゆみについてお話を伺いました。


光風園病院のあゆみ

結核療養所として開院した光風園病院

当院は、私の曽祖父が、1940年に結核療養所として開設しました。父の木下毅(現・光風園病院理事長)が赴任した1978年頃には、結核の患者さんは徐々に減少していましたが、寝たきりの状態になっている患者さんや、結核が治っても帰る場所のない社会的入院の患者さんが入院患者さんの半分くらいいらっしゃったと聞いています。そのような患者さんたちの療養生活を支えたいと考えた父は、良質な慢性期医療の提供に取り組みました。老人の専門医療を考える会に入会し高齢者医療を学ぶことに始まり、日本慢性期医療協会の会長を務めるなど、慢性期医療の実践と拡大に尽力しました。

 

当院に大きな変化が訪れたのは、2006年でした。この年に医療区分が導入されました。長期療養を中心とした当時の私達の病院のままでは社会のニーズに応えられなくなると考え、当院はリハビリテーションセンターを開設し回復期リハビリテーション病棟を立ち上げました。私が当院に赴任したのはこの前年です。

私は、元々は皮膚科医として大学病院に勤めていました。ある日、私が在籍していた医局の教授が突然亡くなり、それをきっかけとして自分を取り巻く状況が大きく変わりました。せっかく大学病院に勤めているにもかかわらず、研究や勉強をする時間が十分に取れず将来の展望が描けなくなり、自分の人生に初めて真剣に向き合いました。そのときに代々経営している光風園病院の魅力をあらためて知り、下関に戻ることを決めました。当時の光風園病院は、リハビリテーション機能がまだ弱かったこともあり、石川誠先生に御指導いただきながら初台リハビリテーション病院で1年半ほど経験を積んだあとで、当院に赴任しました。

 

地域包括ケア病床の運用を開始

回復期リハビリテーション病棟は20床よりスタートしましたが、当初は他の病院で断られた重度の合併症や認知症の患者さんのリハビリテーションや、廃用症候群の患者さんが主でした。徐々に周囲の病院の信頼を得て紹介患者さんも増え、リハビリテーションスタッフも確保できるようになり、5年間かけて58床まで病床数を増やしました。その後、2012年には、近隣のケアミックス病院と合併し、光風園病院自体も211床から285床に増床しました。国の施策である地域包括ケアシステムの推進の一環として、同じく2012年に地域包括ケア病棟が誕生しました。当院も地域のニーズに合わせて地域包括ケア病床を設置することを理事長が決めた際には、合併の混乱も収まらないなかで私は戸惑いましたが、反対する幹部職員は誰もおらず、どうしたら実現できるのかを懸命に考え動いてくれました。スタッフの協力と努力が実り、当院の地域包括ケア病棟の運営は、順調に軌道に乗りました。2018年には、医療機能と生活施設としての機能を併せ持つ介護医療院“もみじ”を開設しました。

療養病床のみで運営していた頃と比べて、今では年間の入院患者数が約4倍に増えました(2019年現在)。ほとんど紹介のなかった開業医さんからも年間150例近くご紹介いただけるようになりました(2019年現在)。忙しくなりましたが、現場のスタッフも、やりがいを持って対応してくれています。

また、地域包括ケア病床の開設により、回復期リハビリテーション病棟が満床の場合は地域包括ケア病床で患者さんを受け入れるなど、状況に応じて臨機応変に対応することが可能な体制が取れるようになりました。


下関医療圏の現状について

2019年現在、当院が位置する下関医療圏は、医療の提供を続けていくうえで厳しい状況に直面しています。下関医療圏における病院経営の現状についてお話しします。

 

生産年齢人口の減少に伴い、労働力の確保が困難に

下関医療圏の現在の人口は約26万人ですが、全国的に見ても早いペースで人口が減少している地域です。周囲に大都市が多いことから人口流出も激しく、とくに生産年齢人口の減少は著しく年間で約1,600人、この先30年間では約6万人の減少が見込まれています。その影響で、これからを担う医療従事者の人材確保が難しくなっています。

 

激しい経済競争により、病院経営は難しい状況に

山口県の人口当たりの病院の病床数は全国2位です。そのほかの施設数も多く、いわゆるベッド数の総計は全国平均を大きく上回っています。地域医療構想では下関医療圏の病院全体で、2019年現在、急性期・慢性期を合わせて約2,000床の削減が求められています。急性期を担う公的病院を含めた病院の多くが、地域包括ケア病棟を多数設置しており、病床数は飽和状態にあります。このように、下関医療圏において、現状の医療供給体制を維持することは非常に難しくなっています。

こういった背景があるなかで、当院はよりよい医療やケアを提供するために尽力し続けてきました。


経営者が自ら現場に立ち、スタッフを導く光風園病院

 

私たちのような小さな組織では、経営者が自ら現場に立つことで、新しい事業を円滑に進めることができています。1例をあげると、理事長はケアプランのシステム作りから実践まで、導入から30年経った今でも現場で活動しています。副理事長が地域包括ケア病棟の診療を担当し、私は回復期リハビリテーション病棟と介護医療院“もみじ”の診療を担当しています(2019年5月時点)。

介護医療院“もみじ”は、介護老人保健施設“さくら寮”の病床を2つに分ける形で立ち上げた施設です。開設が決まったとき、実際に現場で働く職員たちにとっては、新しいことが始まるので大変だという、大きな不安があったのではないかと思います。だからこそ、経営者が率先して現場に出るべきだと考えました。

経営者が現場にいることで、何か問題が起きたときでもスタッフたちと共有しながら対策を考えていくことができます。業務は滞りなく進んでいるのか、苦労しているのか、現場の様子を肌で感じながら組織を動かしていけることは、当院の強みのひとつだと思います。これからも、当院の理念である「自分が受けて満足できるサービスの提供」を実践することに、全力で取り組んでまいります。

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