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医療情報との正しい付き合い方を学ぶ「SNS医療のカタチ」――社会の課題と変化

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授 大塚篤司先生

まだ医療者がSNSなどで発信・活動することが珍しかった2018年。「誤った医療情報やデマによる健康被害を防ぎたい」との思いで集まった4人の医師がいました。一般生活者の医療リテラシーを高める彼らの活動「SNS医療のカタチ」の公式Twitterアカウントは1万4,000ほどのフォロワーを有し(2021年11月時点)、2020年からはYouTubeを利用したウェブ講座も開催されています。本活動を運営する「一般社団法人医療リテラシー研究所」代表の大塚 篤司(おおつか あつし)先生(近畿大学医学部 皮膚科学教室主任教授)に、当時の社会課題や現在までの変化について伺いました。


発足当時の社会にどんな課題があったのか

2018年当時は誤った医療情報やデマが多く存在しており、それにより健康被害を受ける人々がいました。たとえば皮膚科の分野でいうと「ステロイドを塗ると皮膚が黒くなるからステロイドを使いたくない」という誤解です。皮膚が黒くなるのは炎症によるものであり、ステロイド外用薬はその炎症を抑える薬です。しかし誤解が不安を生み、一部でステロイド外用薬が正しく使われずに症状が悪化したり、白内障*や網膜剥離**(もうまくはくり)などの目の病気の原因になったり、感染症を起こして菌血症(血流中に細菌が存在する状態)に陥ったりする事例があり、とても悔しい思いをした経験があります。

*白内障:さまざまな原因で水晶体が濁る病気。水晶体が濁ることで光の通りが悪くなり、物がかすんで見えるなどの症状が現れる。

**網膜剥離:網膜(物を見るための神経の膜)が何らかの原因により眼球壁側から剥がれてしまうこと。


集まった4人の医師たち

当時の社会に対して課題感を持っていた4人の医師が集まり、SNS医療のカタチを発足するに至りました。この名前には「SNSを通じて作る医療の新しい形を作りたい」という思いが込められています。メンバーは、堀向 健太(ほりむかい けんた)先生(Twitterアカウント名:ほむほむ@アレルギー専門医)、市原 真(いちはら しん)先生(同:病理医ヤンデル)、山本 健人(やまもと たけひと)先生(同:外科医けいゆう)と私の4人です。

 

左から市原先生、山本先生、堀向先生、大塚先生

 

その頃は今のように医師がSNSで発信・活動することは一般的ではなかったので、「変わった人」という扱い方をされることが多かったですね。私以外の3人がペンネームを使ったのは、社会の風当たりが強い中でSNSを本名で始めて所属病院や関係者に迷惑をかけたくないという気持ちからでした。そのような肩身の狭い思いをしながらも活動を続けていたのは、4人全員が「科学的根拠に基づく医療情報を一般生活者に伝え、誤った医療情報などで悲しむ人を1人でも減らしたい」という思いを持っていたからです。


医療情報との付き合い方を「楽しく」伝えたい

活動の中心は、市民公開講座です。東京や関西エリア、北海道などさまざまな地域で無料もしくは安価な参加料で一般市民向けに医療情報を伝える活動をしてきました。2020年以降はコロナ禍で現地に赴くことが難しくなったことを機にオンラインでの発信を始め、これまでに計31回実施しています(2021年11月時点)。医療や病気の話は暗くシリアスになりがちですが、そうではなく視聴していて「面白い」「楽しい」と感じてもらえるような内容にできるよう心がけています。

また、2020年3月からはYouTubeのチャンネル(チャンネル登録数1万4,300人ほど:2021年11月時点)で医療リテラシーを高めるための動画を配信しています。さらに2020年9月には「SNS医療のカタチTV」というオンライン番組を放映しました。これは、私たちの活動に賛同くださった企業やテレビ関係の方々のご協力により実現した新たな試みです。アーカイブ動画が視聴可能ですので、ぜひご覧ください。

 

左から堀向先生、山本先生、市原先生、大塚先生


変化しつつある社会――誤った情報を抑止する力

近頃はSNSを活用して根拠のある医療情報を発信する医療者や団体が増え、社会的なインパクトを与える活動も目にするようになりました。2018年からの3年余りで社会が徐々に変化していることを感じます。

最近、某テレビ番組で科学的に根拠のない誤った情報が放映された際に関係学会や患者さんから抗議の声が上がり、訂正と再発防止がなされるという出来事がありました。私たちも学会と協働してウェブ記事を配信し、問題提起を行いました。このように誤った情報が広まりそうなとき即座に抑止するはたらきかけは以前もありましたが、実際に声を届けることが難しい場面もありました。しかし、今ではきちんと声が届くようになったのです。そう考えると、やはり社会は少しずつでも着実に変容しているのだと確信できます。


今後は対面とオンラインの両輪で

私たちの活動の目的は、患者さんはもちろん健康な方々にも科学的に正しい医療情報を伝え、情報との付き合い方を学んでもらうことです。それにより、いざ病気になったときにきちんと情報と向き合うことができ、デマや怪しい民間療法などの情報に惑わされないようにしたいのです。

コロナ禍を機に現在はウェブ上の情報発信がメインになり、視聴者も増えました。たとえば今まで現地開催で100人ほどの方に伝えていたことを、ウェブ上では1,000人、1万人という方々に伝えることができるのです。今、情報を広める土壌は豊かになったと感じています。ただ一方で、face to faceで実際に困っている方や医療情報に興味がある方の顔を見て情報をお伝えする機会というのも、非常に貴重なものですし勉強になります。ですから今後は、対面とオンラインの両輪でこの活動を続けていくつもりです。

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