良質な慢性期医療が日本を強くする!慢性期.com

  • facebook
  • facebook

公立病院の経営改善における地域連携のポイント

公立昭和病院 院長 上西 紀夫先生

日本における全病院の約10%を占める公立病院。不採算医療や高度・先進医療の担い手として重要な役割を果たしていますが、経営難と人手不足が深刻な問題になっています。実際に、6割以上の病院が赤字と報告されています(2019年数値)。公立病院が生き残るためには、どんな対策が求められるのでしょう。今回は、山積する課題に取り組む公立昭和病院 院長 上西 紀夫(かみにし みちお)先生にお話を伺いました。


公立病院の役割

公立病院は三次救急(生命の危機にある重傷・重篤患者に対して行う医療)などの高度・先進医療やへき地医療、小児・周産期・災害・精神など、民間病院では対応が難しい不採算・特殊部門の多くを担っています。

 

また、COVID-19の感染拡大時に提供された即応病床(即時受入れ可能な病床)のうちの約32%、人工呼吸器を使用する重症患者受け入れ数の約56%は公立病院でした。日本における公立病院の割合が約10%ということから考えると、貢献度の高さが分かります。

 

2022年3月に発表された診療報酬(医療の対価として病院側に支払われる報酬)改定では、「外来感染対策向上加算」の創設や、「感染防止対策加算」の細分化・加算額引き上げが行われました。これによって、公立病院でも新興感染症受け入れ体制のさらなる強化が求められたといえるでしょう。


公立病院を取り巻く課題――人手不足、働き方改革への懸念

公立病院には、人手不足という大きな問題があります。当院に関しては、ありがたいことに医師や看護師、研修医などの働き手は確保できていますが、公立病院全体の状況は深刻です。医師や看護師の不足はもちろんですが、近年は薬剤師確保も難しいとされています。日本における人口1,000人当たりの薬剤師数はOECD(経済協力開発機構)加盟国37か国の中でトップ(2018年数値)とされていますが、それでも病院での人員確保が難しいとされるのは、給与の問題が大きいのかもしれません。たとえば薬剤師では、病院よりもチェーン薬局のほうが高給な傾向があります。さらに病院の中でも公立病院の給料は安いので、へき地はもちろんのこと、都会でも給料の高い勤務先が選ばれてしまうのです。

 

また、2022年3月に総務省が発表した「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」や、2022年度の診療報酬改定では、医師の働き方改革を後押しする内容が盛り込まれました。このことも、さらなる人手不足につながるのではないかと危惧しています。

 

通常多くの診療科は、数名の医師で成立していることが多いです。特に地方では、常勤医師だけでは成り立たず大学病院からの派遣を必要としている病院も多い状況です。働き方改革によって当直翌日の勤務が禁止されてしまうと、派遣医師が大学で働く時間も減ってしまうため、大学としても医師を派遣しづらい状況になるでしょう。また、在籍医師が一定数を下回った病院は、新たな専門医や認定医を育てるための認定教育施設となる基準を満たせなくなります。これでは大学病院も医師を派遣する意味がなくなってしまい、まさに負のスパイラルに陥ってしまうのです。

 

働き方改革では、研修医に対しても厳しい時間制限が求められています。当院には志の高い研修医が自ら希望して訪れますが、学びたいという意欲を持つ彼らに制限を与えることが良策だとは思えません。医師の健康確保のために長時間労働の是正は大切ですが、行き過ぎた制限は将来的な医療の質低下にもつながってしまうのではないでしょうか。


公立病院が抱える課題を解決するために――地域連携のポイント

顔と顔を合わせた関係構築の重要性

公立病院が抱える経営難という問題は、もちろん当院にも当てはまります。対策として大切なことは「地域連携」だと考えており、当院でも力を入れています。実際、受診される患者さんの紹介率は約80%、逆紹介(かかりつけ医など他の医療機関へ紹介すること)率は100%を超えています(2020年数値)。数字だけ見ると、地域連携病院として何の問題もないのですが、それでもベッド数にはまだ余裕があります。今後は外来枠を減らすことで、夜間や休日を含めた救急患者の受け入れ体制を整備し、緊急時でもお断りすることのないような環境を作りたいです。

 

地域との連携を強化するため、できるだけ顔を合わせる機会を設けるようにしています。院長に就任した当初、そういった機会は少なかったのですが、院長に就任してから地域の先生方やスタッフさんと会食したりなど、交流の機会を増やしました。結果的に相互理解が深まり紹介数が増え、地域医療支援病院にも認定されました。COVID-19流行によって医療環境は大きく変化した今こそ、そのような機会を大切にしていかなければなりません。しかしながら、ここでも障壁となるのが働き方改革です。現在はコロナ禍のため中止していますが、各診療科医師による地域医師への挨拶まわりや会食は、地域連携を充実させる方法として非常に有効です。文章だけのやりとりでは伝わらないことがたくさんあります。このような昔ながらの地道な方法が取れなくなるのは厳しいですね。

 

イメージ:PIXTA

 

ICT(情報通信技術)を使った地域連携

当院では、かかりつけ医の先生方と患者さんの情報を共有する独自システム「iD-Link(アイディー・リンク)」を立ち上げています。しかし、なかなかスムーズな運用には至っていないのが現状です。もっとも大きな課題は、患者さんに対する情報共有の許可を、かかりつけ医の先生ご自身に取っていただく必要があることです。また、そもそもこのような新しいシステムは、ご年配の先生には興味を持っていただきにくいという問題もあります。

 

iD-Linkには多くのメリットがあります。たとえば、患者さんが病院と診療所の両方で同じ検査を行ったり、薬をもらうためだけに当院のような大病院に来ていただいたりする必要がなくなります。そして万が一の悪化時・緊急時にも、病院側は迅速に対応することができます。まさに、国が目指す病院機能の細分化につながるのではないでしょうか。また、診療科が同じであっても、医師によって細かい専門分野は異なります。アイビー・リンクを活用すれば、近隣病院とデータを共有して、緊急時でも適切な医師に紹介することが可能になります。地域連携のためにも、ぜひ浸透させていきたいですね。

記事一覧へ戻る

あなたにおすすめの記事

詳しくはこちら!慢性期医療とは?
日本慢性期医療協会について
日本慢性期医療協会
日本介護医療院協会
メディカルノート×慢性期.com