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全身の健康に深く関わる「オーラルフレイル(口腔機能の衰え)」とは?

東京医科歯科大学 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授 戸原玄先生

口腔機能の虚弱を表す“オーラルフレイル”は2014年、厚生労働省の研究に関する報告書で提言されました。この言葉は、フレイル(心や体のはたらき、社会的なつながりが弱くなった状態)を上位概念として新たに提唱されたものです。高齢化が進展する日本において、フレイル予防と対策は重要な国家戦略の1つとして積極的に進められています。オーラルフレイルとはどのようなものか、戸原 玄(とはら はるか)先生(東京医科歯科大学 摂食嚥下(せっしょくえんげ)リハビリテーション学分野 教授)にお話を伺いました。


オーラルフレイルとは?

オーラルフレイルとは、口腔機能の虚弱です。より具体的にいうと、加齢に伴うさまざまな口腔状態の変化(歯の数の減少、口腔内の衛生状態の悪化など)の変化があり、そこへ心身の予備能力低下(病気にかかりやすくなる)や口の健康に対する関心の低下が重なり、口腔のもろさ・弱さが増加して、食べる機能や心身の機能の低下にまでつながる一連の過程を指します。

オーラルフレイルという概念は、フレイル(高齢の方によく見られる老年症候群で、心や体のはたらき・社会的なつながりが弱くなった状態)の後に出てきたものです。「実はフレイルは口にも起こる」という考えに基づき、ささいな口のトラブルから始まる口腔機能の負の連鎖のモデルとしてオーラルフレイルという概念が形成されました。


オーラルフレイルは体幹筋の衰えにも関連している?

“ささいな口の脆弱はフレイルの入り口になり得る”ことは間違いではありませんが、留意しなければならないのは、口の脆弱性が顕在化するような状態であれば、おそらく口だけではなく体のほかの部分もかなり弱っている可能性がある、という点です。

というのも、体の筋肉は脚、腕、体幹の順番で弱っていきますが、口の周囲の筋肉は体幹筋との関連が強いのです。たとえば体の弱り方として、歩行は難しいけれど座ることは可能という状態は十分にあり得ますが、歩行はできるのに体幹がふにゃふにゃという状態はあり得ませんよね。つまり、口の筋肉が低下して脆弱性が現れている場合、手足の筋肉(骨格筋といいます)と体幹筋の両方が低下している可能性が高いのです。


オーラルフレイルに陥りやすい状況は?

オーラルフレイルに陥りやすい状況はとても幅広く、さまざまな原因があります。

自分で歩けるような状態で口腔機能が衰えやすいのは、生活環境が悪くヘルスリテラシーが低い場合です。たとえば歯をあまり磨かない、虫歯があっても治療をしない(結果的に歯が抜けてしまう)、人とあまり会話をしないといった場合、歯の形態や口腔内の衛生状態を良好に保ちにくく、嚥下機能も低下しやすいです。あるいは、先ほどお伝えしたように口周りの筋肉は体幹筋との関連がありますので、自分で歩けない(体幹筋が弱っている)方は、歯の形態や口腔の衛生状態、嚥下機能が低下しやすい状態に陥っていると考えられます。


オーラルフレイルが心身や社会性に与える影響

オーラルフレイルになると食べる機能が低下し、食事の量や摂取カロリーが不足しやすくなります。また、硬いものが食べにくい場合には炭水化物など柔らかいものに偏りがちで、栄養のバランスが崩れやすいです。たとえば、噛む必要がある野菜や肉ではなく、うどんやおかゆなど柔らかい炭水化物ばかり食べているケースも見られます。このような栄養の不足や偏りは、体重や筋肉量の低下につながり、体の虚弱をさらに進めてしまう可能性があるのです。

また、オーラルフレイルは社会性の低下にも密接に関係しています。たとえば、口腔機能が低下して硬いものを噛めない・歯がない状態の場合、食べられるものが限られる・会話がうまくできないため、外食や人との食事をためらいがちになります。その結果、外出の機会が減り、社会性が低下するのです。さらに、社会性の低下は精神面の健康にも悪影響を与える可能性が高いです。人と話したり外出したりすることでリフレッシュする機会が減少し、自宅にこもりがちになり、精神的な落ち込みや虚弱につながる可能性があります。

 

写真:PIXTA

 

このように、オーラルフレイルは心身や社会性の虚弱と密接に関わりを持っているのです。日本で行われたある調査では、口腔機能が低下している方は、低下していない方に比べて身体的なフレイル、サルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)、要介護状態、死亡の発生リスクがそれぞれ2倍以上高いという結果が出ました。


神経疾患の初期症状であることも――適切な診断の重要性

オーラルフレイルは高齢になって自然と現れる口腔機能の低下です。一方、神経疾患などの病気が原因で口腔機能が低下することもあり、2つの見極めに注意が必要です。たとえばALS(筋萎縮性側索硬化症)では舌が萎縮してものをうまく噛めない状態に陥ることがあります。実際に当院でもこれまでに数件、ALSが原因のオーラルフレイルが発見されました。患者さんの訴えは「ものがうまく噛めないので歯が悪いと思う」というものでしたが、検査してみると、歯に問題があるのではなく舌が萎縮していたのです。

このような場合、適切に診断できれば神経疾患に対する治療を行うことができますが、もし加齢に伴うオーラルフレイルと誤診されてしまったら適切な治療は難しくなります。そのため、口腔機能の低下は加齢によるものだけではなく神経疾患などの病気が起因する可能性があることを皆さんに知っていただきたいです。特にオーラルフレイルを診る医療者は、口腔周辺に現れやすい神経疾患の症状を理解する必要があると思います。


オーラルフレイルは予防できる?

日々の生活習慣を見直すことは、オーラルフレイルを予防するために重要です。たとえば、毎日歩く、あるいは少し負荷の大きい運動(早歩き、スクワットなど)を行うのが理想的です。また、高齢になってから習慣を変えるのは大変なので、若い頃から運動の習慣を身につけておくとよいでしょう。口腔機能の衰えを進めないためには、虫歯をきちんと治療することも重要です。食事に関しては、好き嫌いをせずにバランスよく栄養を取るように心がけてください。

 

写真:PIXTA

 

このように一般的にいわれる“健康的な生活”は、オーラルフレイルの予防につながります。口の健康を守るのは重要ですが、全身の健康がまずは基本となります。そのため、運動習慣や栄養バランスのよい食事などに留意し、そこに適切な口腔ケア(歯を磨き、口腔内の状態をチェックして必要に応じて治療を行う)をプラスするイメージで毎日を過ごしてみてください。

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