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リハビリテーションの鍵となる“予防の視点”と“社会参加”

松山リハビリテーション病院 理事長 木戸保秀先生

愛媛県松山市にある松山リハビリテーション病院は、障害を持たれた方の早期回復や社会参加を目指した医療と介護を提供する病院です。1918年の開院以来、およそ100年にわたり地域のニーズに合った医療を提供してこられました。

今回は、理事長を務める木戸 保秀(きど やすひで)先生に、リハビリテーションにおいて重要な“予防の視点”と“社会参加”についてお話しいただくとともに、現場で働く医療従事者へのメッセージを伺いました。


松山リハビリテーション病院のあゆみ

当院の初代理事長である祖父 桑原 寛一(くわばら かんいち)が、リハビリテーション医療に転換することを決断したのは、1968年のことでした。当院は、もともと感染症対策や寄生虫予防運動、栄養改善運動、衛生のための教育など、予防を中心とした地域医療に取り組む病院でした。戦前から戦後にかけての日本はとても貧しく、人々は栄養状態が悪いことにより、健康管理が難しい状況だったからです。

しかし、終戦後は、結核などの感染症患者さんが減り始めたことや、1963年に日本リハビリテーション医学会が発足、続いて1966年に日本理学療法士協会、日本作業療法士協会が発足するなど、リハビリテーションに対する時代のニーズが高まったことを受けて、1973年にリハビリテーション病院へと転換しました。当院がリハビリテーション病院としての看板を掲げてから、2020年で47年目になります。


リハビリテーションとは何か?

患者さんの“社会参加”を目指すこと

リハビリテーションは、戦争で負傷した兵士を早期に復帰させる必要性から発展したといわれています。そして、施設で暮らしている患者さんの社会参加を目指して医療を提供していこう、という考え方が登場してきたことが、リハビリテーションの歴史におけるひとつの流れでした。リハビリテーションの歴史のなかで、患者さんの“社会参加”は、ひとつの重要なキーワードといえます。

このようなリハビリテーションの原点に立ち返ってみると、リハビリテーションは回復期だけのものではないことが分かります。近年注目されている急性期のリハビリテーションも、以前からその必要性は知られていましたし、退院後の就労支援も、社会参加という意味ではリハビリテーションの一環といえます。

リハビリテーションには、何らかの障害を持つ方々が社会参加できるような環境づくりという意味合いもあるため、本来は“回復期のリハビリテーション”、“脳血管障害のリハビリテーション”などと単純に区切って考えられる医療ではないと考えます。

 

社会参加が可能になるまでがリハビリテーション

たとえば、高次機能障害の患者さんは、社会に復帰した際にコミュニケーションの障害が表出してくることが多いです。復職などがうまくいかず、退院した患者さんが再び当院を訪れることもあります。その場合、どのような場面でコミュニケーションのトラブルが発生したのかを振り返り、ストレスをためないような環境づくりをサポートします。ついカッとなって職場の方に暴力を振るってしまったという場合には、抑制が効かなくなった状態(脱抑制)を薬物療法でコントロールすることや、職場の方に協力を頼むことなどを検討します。

退院後の患者さんは、こうしたことの積み重ねによって、徐々に社会参加が可能になっていくため、退院後もリハビリテーションの一環でサポートしていく必要があります。そして、退院後の生活が安定したかどうか確認しながら、患者さんと一緒に前に進んでいくことができて初めて、リハビリテーションを実践したといえるのではないかと思っています。


予防の視点で取り組むリハビリテーションの重要性

松山リハビリテーション病院 明るく広々とした訓練室

 

機能回復とともに体の機能を低下させないことを目指す

リハビリテーションにおいて、適切な時期に、集中して機能回復を図ることはもちろん必要です。それに加えて、体の機能を低下させないという“予防の視点”を持って、リハビリテーションの計画を立てていくことが重要です。患者さんにどういった支援が必要なのか、その支援がいつまで必要なのか、どこまでが目標なのかを、診療の最初に考えるのです。

私が当院に赴任してすぐ取り組み始めた摂食嚥下(えんげ)リハビリテーションは、この考え方を基盤としています。入院患者さんのADL(日常生活動作)を入院当初の段階で詳しく評価し、摂食嚥下障害が疑われる患者さんには機能回復を図る対策を行い、そうではない患者さんに対しては機能を低下させないための対策を行うという形でスタートしたものです(詳しくは『摂食嚥下障害に対する支援を提案し続ける、松山リハビリテーション病院言語療法科』をご覧ください)。

 

日々の生活に予防の視点を取り入れて

本来のリハビリテーションは回復期だけのものではない、ということを踏まえ、患者さんが地域とどのようにつながりを持ち、どのように社会参加を進めていくのかまで考えなければなりません。私は、リハビリテーションを終えた患者さんが社会参加を進めていくためには、患者さんに対して予防の観点での教育を徹底することが重要だと考えています。その役割を担うのが、主に高齢の方とご家族をサポートする地域包括支援センターです。

将来的に高齢者はどのような状況を迎え、どのような生活をしていくとよいのかといった情報を患者さん本人やご家族に伝えることは、予防の視点を持っていただくことにつながります。糖尿病予防や高血圧予防といった病気の予防はもとより、転倒予防などの生活上のアドバイスや車の運転に対する注意喚起なども、日々の生活に予防の視点を持っていただくことにつながるでしょう。

そして、十分に予防していたうえで、もし病気やけがをして入院してしまった場合でも、入院してリハビリテーションを受けていた期間をこれまでよりも短縮させて、その分、日常生活でリハビリテーションに取り組むことができるような環境や体制を地域に構築し、患者さんのスピーディーな社会参加につなげたいと思っています。私の祖父が大切にしていた予防医学の考え方は、これからのリハビリテーションにおいても欠かせないものなのです。


松山リハビリテーション病院の展望

先に述べたとおり、私は、社会参加が可能になるまで患者さんをサポートすることがリハビリテーション病院の責務だと思っています。急性期や回復期といった患者さんの状態や、病気ごとに患者さんを区切って断片的に提供するリハビリでは、患者さんを正しく社会参加の段階まで導くことはできないと思います。ですから、当院の多職種同士が連携して退院後の生活を見据えたリハビリを提供したり、地域包括支援センターや在宅ケアセンターなどと協力して患者さんの社会参加をサポートしたりする仕組みづくりを目指しています。

そして、リハビリテーションの認知度が向上し、競合する病院も増えてきているなかで、今後は少子高齢化の流れが進み、人口減少の時代になってきます。そのような時代に、当院のような規模の病院がどのような道に進むべきか、今はまだ予測ができません。当院は、初代理事長の桑原 寛一氏が開設した杏順堂桑原病院から、時代のニーズに即した松山リハビリテーション病院へと転換し、やがてまた転換期を迎えるはずです。その未来を見据えて考える力のある若者を育てることに、力を注いでいきたいと考えています。


若手の医療従事者に向けて、木戸先生からのメッセージ

 

少子高齢化に伴い、愛媛県の働き手は減少し続けています。だからこそ、若手の皆さんにはぜひ長く勤め続けてもらいたいと思っています。

そこで皆さんに心がけていただきたいのは、病院としてのあるべき姿や、この地域にとって何が必要なのかを、常に意識するということです。今は、まだイメージすることが難しいかもしれません。けれども、20年ほど仕事を経験すると、初めて見えてくるものがあると思います。そのときに、地域に必要なことをきちんと考えられる医療従事者になれるよう、若いうちから常に地域のことを意識して働くことを心がけてください。

当院も、やはり若い方が自発的にいろいろなことに取り組んでいける環境であるべきだと思っています。若手の皆さんはぜひ、自分たちが自発的に動くよう努め、そして、後輩もそうなれるような環境づくりに取り組んでください。

私たちにとっての最優先事項は、患者さんの病気がよくなるということです。しかし、患者さんに「また病気になったらここに来よう」、「自分の子どもも診てもらいたい」と思っていただけるような病院を目指すことも大切です。地域で必要とされる医療やリハビリテーションをどのように提供していくのか考えることで、次につなげていただければと思います。

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