病気 2019.11.29
フレイル対策に通じる経腸栄養管理—目白第二病院における実践
目白第二病院 副院長 水野英彰先生
世界に類をみないスピードで高齢化が進展する日本。高齢者医療におけるよりよいアウトカムを目指して、経腸栄養管理の方法などを研究している水野英彰先生(目白第二病院 副院長)に、同院における経腸栄養管理の実践についてお話を伺いました。
目白第二病院における栄養管理の実践
栄養投与ルート—経腸栄養と静脈栄養どちらを優先するのか
栄養投与ルートは「経腸栄養」と「静脈栄養」に大別されますが、どちらを選択するべきでしょうか。2016年版『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン』によれば、「栄養投与ルートは経腸と経静脈のどちらを優先するべきか」という問いに対して、「経腸栄養を優先することを強く推奨する(エビデンスレベルA1)」という回答が得られています。経腸栄養は感染症発生の抑制において優位であり、また、在院期間の短縮、医療費の削減で効果を認めました。一方で、死亡率に関して優劣は認められませんでした。
これらの結果から、経腸栄養と静脈栄養を比べたとき、症状や状態の結果そのものには差は認められないが、感染症の抑制や在院期間の短縮、医療費の削減などの優位性があることから、できる限り経腸栄養を優先することが推奨されています。
投与形態の検討
当院で行う経腸栄養剤の投与形態には、超短時間間欠投与法、間欠的投与法、周期的投与法、持続投与法などの方法があります。短時間で投与を行う超短時間間欠投与法、1日に2〜3回、それぞれ2〜3時間かけて投与する間欠投与法、昼間だけ、夜間だけというように投与する時間と投与しない時間を交互に設定する周期的投与法、そして、24時間、持続的に投与する持続的投与法です。
私が提案する超短時間間欠投与法には、従来の、液体栄養剤を1時間あたり100〜200ml投与する方法と、半固形化栄養剤を15〜30分あたり400〜533ml(300〜400kcal)投与する方法があります。便宜上、本記事では、前者を「ノーマルボーラス投与」、後者を「スーパーボーラス投与」と呼びます。
液体栄養剤は経管栄養の投与ルートに制限がなく胃ろうや経鼻胃管でも使用できますが、原則、ノーマルボーラス投与で使用されます。ノーマルボーラス投与では、100〜200ml/時の投与によって長時間にわたり患者さんを拘束するため、廃用症候群や褥瘡の発生につながりやすく、また、患者さんの精神的・肉体的苦痛を伴うというデメリットがあります。
一方、スーパーボーラス投与は、1回あたり1時間ほどであるため拘束時間が短くて済みます。さらに、半固形化栄養剤を使うため、胃適応性弛緩と胃蠕動運動が促進されることから、より生理的な栄養法といえます。しかし、スーパーボーラス投与は、投与時に看護師による加圧を行うため手間がかかり、その分マンパワーが必要です。
この問題を解決するための経腸栄養投与法として、私は、「自然落下法(落差注入法)」を提唱しています。自然落下法とは、一定の高さ(30〜70cm)から重力を使って流速を確保し、約1,000〜1,500mPa・s(パスカル秒)の中粘度のとろみをつけた流動食を投与する方法です。一定の時間(15〜30分)以内に一定のカロリー(300〜400kcal)を投与します。
この自然落下法では、胃適応性弛緩と胃蠕動運動が起こります。つまり、胃の生理機能を活かした消化に寄与するのです。
この自然落下法は、経腸栄養を受ける患者さんにサーカディアンリズム(概日リズム)を整えることを視野に入れた管理を提供したいと思い、考案しました。
あらゆる生物は、体内時計によって、およそ24時間周期の体内リズムを形成しており、この体内リズムを「サーカディアンリズム」と呼びます。サーカディアンリズムは、睡眠などの生理機能や体温、血圧、糖・脂質代謝などに関わりを持っており、サーカディアンリズムの乱れは、生活習慣病を含むさまざまな病気の発症に関与すると言われます。
液体栄養剤を投与する場合には、通常、1食につきおよそ120分を要することから、生理的消化を失い、サーカディアンリズムの乱れを引き起こす可能性があります。しかし、自然落下法は、1食につき30分ほどの時間で済むことと、朝食であれば日の出の時間帯に投与することができることから、生理的消化を促すことができると考えています。
自然落下法では、食物繊維含有の低粘度の半固形状タイプの濃厚流動食を使用します。自然落下法による投与を行う条件として、以下が挙げられます。
✔︎胃の器質的・機能的障害がない
✔︎禁食期間が短い(2週間以内)
✔︎使用デバイス:8Fr・ 10Frの経鼻胃管、15FrのPTEG、15Frの径が細い胃ろう
このような自然落下法による栄養療法の実践においては、適正な投与速度の設定、食後高血糖・栄養指標などの短期成績のさらなる安全性の確認といった課題があります。
私は、今後、このような課題を解決するべく、多施設による臨床評価により安全性を評価し、適応基準を明確にするなど、自然落下法の実用化に向けたガイドライン作りにも注力したいと考えています。
強調したいことは、自然落下法がどのような患者さんにも適切であるわけではなく、栄養管理は、あくまでも個々のケースに応じて選択するべきであるという点です。継続投与が適している方もいるでしょうし、また、患者さんの希望を聞くことも重要です。
患者さんのニーズに応じてチョイスできる選択肢があることが重要であり、その引き出しを増やすために、私は、自然落下法をアカデミックに分析していきたいと考えています。