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フレイルの診断と予防――要介護にならずいつまでも健康な生活を送るために

東京都健康長寿医療センター 理事長 鳥羽研二先生

我が国では、高齢化の進展に伴い要介護(要支援)の認定者数が増加し続けています。要介護にならずいつまでも健やかな暮らしを続けるためには、その前段階にある“フレイル”をいかに予防するかがとても重要です。2020年4月にはフレイル健診も始まり、国としてフレイルの予防・対策に力を入れ始めていることがうかがえます。人生100年時代に大切なテーマであるフレイルの診断と予防について、東京都健康長寿医療センター 理事長の鳥羽 研二(とば けんじ)先生にお話を伺いました。


フレイルはどのように診断するのか

  • 簡易フレイルインデックス

身体的フレイルの診断法として世界で使われているのが、米国のリンダ・フリード教授が提唱した“CHS基準”です。日本では、日本人の基準に合わせて一部を調整した“J-CHS基準”が研究に適した方法として用いられています。J-CHS基準では体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下の5項目でフレイルを評価します。さらに、J-CHS基準では握力や歩行速度の測定が必要であるため、より簡便に評価を行うための“簡易フレイルインデックス”というチェックリストが考案されました。

 

【簡易フレイルインデックス】

✔︎ 6か月間で2~3kgの体重減少がありましたか? 回答はい 0.いいえ

✔︎ 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? 回答はい 0.いいえ

✔︎ ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか? 回答はい 1.いいえ

✔︎ 5分前のことが思い出せますか?  回答はい 1.いいえ

✔︎ (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする 回答はい 0.いいえ

(※引用元:荒井秀典, 介護予防ガイド 国立長寿医療研究センター, 2019, P25)

 

簡易フレイルインデックスで3項目以上に該当する場合はフレイル、1〜2項目に該当する場合はプリフレイルと判定できます。フレイルであると判定された場合にはその後2年間で要介護と認定されるリスクが高いとされており、早めの介入が必要です。


フレイル健診/フレイルサポート医育成の取り組み

厚生労働省は、2020年4月に75歳以上の後期高齢者を対象に“フレイル健診”をスタートしました。フレイル健診は、高齢の方の特性を踏まえた質問表を活用して健診で健康状態を把握するとともに、フレイルの予防・改善に生かすことを目的としています。この国の動きに関連して、現在私は東京都健康長寿医療センター 副院長の荒木 厚(あらき あつし)先生と協力し、フレイルサポート医の育成に尽力しています。フレイルと診断された患者さんに対し、地域の医師たちがフレイルを改善するための指導を適切に行えるよう教育・育成する取り組みです。


フレイルを予防するにはどうしたらよいか

慢性疾患を予防・治療する

脳卒中、糖尿病、腎臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、難聴、視力障害といったさまざまな病気がフレイルを加速させます。また、大脳白質病変があると体重減少、頻尿、尿失禁、歩行障害、躓(つまず)き、転倒といったフレイルの表現型が多く見られ、また脳血管性認知症の原因にもなり得ます。そのため、それらの慢性疾患を予防、あるいは治療することがフレイル予防への第一歩といえるでしょう。

 

定期的な運動を継続する

フレイルの予防で重要なものの1つは運動です。高齢の方でも、筋力トレーニングを行うことで歩行機能やバランスが改善することが分かっています。ある研究では、定期的な運動を継続することで、フレイルの表現型である頻尿、視力低下、不眠、関節痛などを減らせるという結果が示されました。運動の内容としては、柔軟体操に加え、ラジオ体操をハードにしたような全身運動を30分ほど、週に1〜2回行うのがおすすめです。

散歩や自転車はフレイルの予防には効果的であることが分かっていますが、認知症の予防には有用ではありません。認知症の予防には、考えたり計算したりするようなゲームスポーツがよいとされています。たとえば国立長寿健康医療センターが行った研究では、運動習慣のない65歳以上の男女に半年間ゴルフを続けてもらったところ、認知機能の低下を抑制したという結果が出ました。ゴルフはスコアを数える必要があり、ほかのプレイヤーと話して社交的な活動を行うため、認知機能の低下を抑制したと分析されます。

 

素材:PIXTA

 

口腔ケアと栄養管理でオーラルフレイルを防ぐ

オーラルフレイル(咀嚼、嚥下などの口腔機能が脆くなった状態)を防ぐために、口腔ケアや栄養管理を継続して行うことも重要です。歯が減ってよく噛めない、嚥下障害によってものを食べたり飲んだりすることが難しい状態では、食事が十分に取れず低栄養になり、フレイルの悪循環に陥る可能性があるからです。

 

食品摂取の多様性と認知機能

毎日の食事も大切なポイントです。穀類中心で品数の少ない食事よりも、副菜が多くバランスのよい食事、すなわち“食品摂取の多様性が高い食事”を取るほうが認知機能低下のリスクが低いとされています。いろいろな食品を摂取するということは、結果的に幅広い栄養素を摂取することになり、また献立を考えたり料理をしたりする際にも頭や体を使います。このような食行動が影響していると考えられます。具体的には、たとえば和食や地中海食のような多様な食品を取り入れたメニューがよいでしょう。認知症を予防することは、フレイルの予防につながります。

 

素材:PIXTA

 

適度なアルコール摂取は、脳梗塞の予防という観点では推奨されます。ただし、食欲を増す程度の適度な量を超えて、塩辛いおつまみと共に多量のアルコールを摂取することは避けてください。適度なアルコール摂取量とは1ドリンク(準アルコールを10g含むアルコール飲料)という単位で示されます。1ドリンクに相当する酒の量は以下のとおりです。

 

✔︎ ビール・発泡酒(5%)250mL:中ビン・ロング缶の半分

✔︎ チュウハイ(7%)180mL:コップ1杯または350mL缶の半分

✔︎ 焼酎(25%)50mL

✔︎ 日本酒(15%)80mL:5合

✔︎ ウィスキー・ジンなど(40%)30mL:シングル1杯

✔︎ ワイン(12%)100mL:ワイングラス1杯弱

 

ただし、女性や高齢の方、飲むと顔が赤くなる人は、これよりも少なくすることが推奨されています。

 

転倒・転落のリスクを軽減する

フレイル予防の観点でもっとも避けたいのは、転倒・転落による骨折によって寝たきりなることや、頭を打ち血腫(けっしゅ:血の塊)ができてしまうことです。そのため、転倒・転落のリスクを軽減することは非常に重要です。

ある研究で、夜中に起きる回数が多いほど寿命が短いという傾向が示されました。この結果には夜間頻尿による転倒・転落のリスクが関連していると推察され、さらにその背景には、筋力低下、寝室とトイレの間に階段があるといった住環境の要因、ポリファーマシー(薬物多剤併用:必要以上の薬が投与・処方されている状態)による影響、白内障など感覚器官の障害による影響など、フレイルにつながるさまざまなリスクが潜んでいる可能性が高いです。逆にいえば、これらの病気を治療したり住環境を改善したりすることで、フレイルの要因を取り除ける可能性があるということです。

 

社会的なつながりを維持する

社会的なつながりが多いと、独居でもフレイルになりにくいといわれています。つまり、独居そのものが問題というわけではなく、外出や人との会話など社会的なつながりを維持することが重要ということです。そのような社会的なつながりがない方や希薄な方は、習慣的に人と会う時間をつくる、自治体の運営するカフェなどに足を運ぶなど、何か行動できるとよいと思います。ただ、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響により貴重な憩いの場がなくなってしまった状況も多くあるようです。自治体側では、このような状況を踏まえて、地域の方々が気軽に集まれるコミュニティづくりなどを再び検討していただけたらと思います。


ご本人やご家族がフレイルに気づけるポイントを見逃さない

記事1でもご説明したとおり、フレイルはさまざまな形で現れます。たとえば牛乳の紙パックが開けにくい、食が細くなった、寝付きが悪い、物忘れが気になる、外出することが少なくなったといった変化を感じたときには、「歳のせい」と思わずにできるだけ早く予防や改善に取り組むことをおすすめします。相談先としては老年科、フレイル外来などがよいでしょう。あるいは“フレイル健診”を活用するのもよいですね。


フレイルの診療・研究など老年医学にかける思い

私が医師になった頃、老年医学に進む者は多くありませんでした。「将来性のないところになぜ行くのか」と心配されることもしばしば。ひねくれ者の私は、老年医学とは何をしているのかまったく分からない世界で、逆に興味が湧いたのですね。

ただ、40歳くらいまでは絶望の連続でした。加齢に伴って現れる症状は診療の中でたくさん目にしているのに、なぜか教科書には載っていない。ですから、担当した患者さんのカルテを何百冊も引っ張り出して、そのデータをまとめることにしました。そのようにして少しずつ自分の道を見つけ、ようやく認知症やフレイルの臨床研究で人の役に立てる日がやってきたのです。

 

 

老年医学ほど将来性があり挑戦し甲斐のある分野はないように思います。日本は世界でも類を見ない超高齢社会。これから日本が高齢者医療をどのように実践していくかを、世界が注視しているのです。絶望に打ちひしがれていた昔の自分には想像もできませんでしたね。

今はとても幸せです。老年医学は非常に刺激的でチャレンジングな領域。全国でも老年医学教室はまだ少なく、競争相手は多くありません。何か新しいことに挑戦しようと思ったら、その先端を進んでいけるのです。ぜひ若手医師の皆さんにも、老年医学の世界に飛び込んでいただけたら嬉しいです。

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