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ケアの本質は本人の能力を生かす「自立支援」――具体的なポイントとは?

株式会社あおいけあ 代表取締役 加藤忠相様

高齢化の進行により2020年には総人口の28.7%が65歳以上となった日本。その高齢化率の高さは世界でも群を抜いており、この状況は2040年頃まで変わりそうにありません(その後は中国が1位となる見込み)。2000年には介護保険制度が始まりましたが、現在に至るまでさまざまな問題が山積しています。そのようななか「支配・管理」主体の介護現場の現状にショックを受けて自らの地元に介護事業所を設立し、自立支援を前提とした本質的なケアを提供し続ける加藤忠相(かとう ただすけ)さん。海外からも見学者が訪れる介護事業所「あおいけあ」の真髄と、それを実現するためのポイントについてお話を伺いました。


「ケア」とは本人の能力を生かし自立を支援すること

介護分野で当たり前のように使われている「ケア」という言葉の日本語訳を今一度考えてみましょう。その意味は「世話する」「面倒を見る」ではありません。本来、ケアとは「気にかける」という意味で、その語源はラテン語の「耕す」という言葉です。すなわち、相手が持っている畑を耕して生活がうまくいくように気にかける、ひいては本人の能力を生かすことを指します。

これをたとえば「お茶を飲む」という行動に置き換えてみましょう。Aさんは認知症があり最新の電気ケトルは使えません。そんなときは、どうやったら自分でお茶が入れられるかを考えます。一緒にホームセンターへ行き「お湯を沸かすのにはどれを使いますか」と聞くと、Aさんは昔使っていた旧式の電気ポットを選びます。お茶の時間に「Aさん、お茶入れるのを手伝ってもらってもいい?」と声をかけると「しょうがないなあ」と言ってお茶を入れてくれる――。これがケアの本質、すなわち自立の支援です。

一方、決まった時間にスタッフがお茶を出してあげることは、果たしてケアといえるでしょうか。それはただの業務に過ぎません。もちろん中にはお茶を入れることがどうしても難しい方もいるでしょう。しかしお茶を入れる能力がある方もいます。そのような方に対してルーティンワークでお茶を入れてあげることは、介護福祉士がやるべき仕事ではありません。それは介護保険法の第2条に「保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化防止に資するように行われる」との記載があることからも明らかです。今、ケアの根本的な認識を改める必要性を感じています。

 

皆で昼食を準備している様子


できる限り車椅子を使わない

自立支援における身体的な面での重要なポイントは、車椅子をできる限り使わないことです。もちろん特殊な事情やご本人の強い希望があれば車椅子が必要な場面もあるでしょう。しかし、それ以外の方は車椅子を降りて自力で歩いたり立ったりすることが大切です。車椅子は椅子ではなく、移動のための道具ですから。

人は動かなければ筋力や心肺機能が低下し、ますます動けなくなります。たとえば1週間ベッドで安静にしていると15~20%の筋力が失われます。特に高齢の方では基礎的な筋力が低く、安静による影響はさらに大きいのです。一日中車椅子に座っていたら筋力や体力はどんどん低下し、寝たきりになるリスクが上がるでしょう。


栄養管理とリハビリは両輪――「低栄養」を避ける

今度は、少し斬り込んで「死」から逆算して自立支援を考えます。

高齢の方にとって特に注意するべき死因の1つは、肺炎と骨折です。そして肺炎と骨折の原因としてフレイル(高齢の方に見られる老年症候群で、心や体のはたらき・社会的なつながりが弱くなった状態)があり、フレイルの最大の原因は「低栄養」といわれています。

低栄養の要因は多岐にわたります。中でも、活動量が低下して食事の量が減ったり(菓子パン1つでお腹いっぱい、夫婦でコンビニ弁当を分け合うなどの例はよく聞かれる)、食後のタンパク質合成の反応が成人に比して低下したりする点に注意が必要です。低栄養の方に対して必要だからといって積極的にリハビリテーション(以下、リハビリ)を行えば、必要以上に痩せてしまうでしょう。栄養管理とリハビリは両輪でなくてはなりません。


「食べない理由」を探る

適切な口腔(こうくう)ケアを行うことで口腔内の衛生状態を清潔に保ち、肺炎を予防することも重要です。さらに大切なことは「舌」をきちんと動かすことです。固形物や水分を飲み込むときには必ず舌が動きますよね。物をかんで咀嚼(そしゃく)するには、舌の動きが必須なのです。

では、舌はなぜ動かなくなるのでしょう。その原因の1つに「話さないこと」が挙げられます。静かな環境で車椅子に座り誰とも話さない状態が続けば、徐々に舌が動かなくなり、食事がうまく食べられなくなってフレイルに陥ります。そのような状態を避けるためには、人と交流しよく話すことが重要なのです。


アセスメントの重要性と活用方法

利用者さんに関する情報収集(アセスメント)は適切なケアを行ううえで非常に重要です。どのような情報を記録するのかというと、IADL(手段的日常生活動作)がもっとも多く、次にADL(日常生活動作)というイメージです。IADLは交通機関や電話の利用、調理、買い物など、自立した在宅生活を営むうえで必要となる、ADLより一段複雑な動作を指します。より本人のパーソナルな部分に関連するものでもあります。

一般的に入所時の申し送り事項にはADLの情報が中心で、たとえば「左半身麻痺あり」「右目視力低下」「盗られ妄想あり」といったようにその人の“弱点”が書き連ねてあることが多いです。もちろんそれらも必要な情報ですが、それだけでは適切なケアはできません。私たちはより本人の生活やパーソナルな部分に関わるIADLの情報を、たとえば性格や趣味、嗜好、生活史、家族構成、信念(宗教観)などを多く取り入れ、自立支援を前提としたケアにつなげています。


アセスメントは「関係性」によって変わる

私たちは、利用者さんのアセスメントを事前にしっかりと頭に入れておきます。しかしそれで終わりではなく、利用者さんが入所してから半年ほどかけて情報を集め続けます。なぜなら時間の経過とともに「関係性」は変わるからです。

たとえば入所したての頃はスーツと帽子を身につけて脚を組むようなおしゃれ好きの方がいたとします。最初は格好つけて周囲とも気軽には話さない人のように思えました。ところが数か月が経過し周囲との関係性が変化すると、介護職員に「一緒にお風呂入ろう」と冗談を言います。これはその方が時間の経過とともに周囲の人に馴染んで「よそ行き」の自分から「本来の自分」に変わったことを表しています。昔からの友人と今日出会った人とでは付き合い方が違うように、関係性が変わることでアセスメントも変わるのです。

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