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オーラルフレイルの治療とケアのポイント、現状の課題

東京医科歯科大学 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授 戸原玄先生

社会に少しずつ浸透してきたフレイル(心や体のはたらき、社会的なつながりが弱くなった状態)という言葉。フレイルの中には、口腔機能の虚弱を表す“オーラルフレイル”というものがあります。オーラルフレイルは心身や社会性に深い関わりを持ちます。高齢化が進展する日本で重要な課題となっているオーラルフレイルに対する治療・ケアのポイントについて、戸原 玄(とはら はるか)先生(東京医科歯科大学 摂食嚥下(せっしょくえんげ)リハビリテーション学分野 教授)にお話を伺います。


筋肉の弱り方を考慮したケアの重要性

先の記事でお伝えしたように、体の筋肉は脚、腕、体幹の順番で弱っていきます。このような筋肉が弱る順番が分かると、嚥下障害に対するケアやトレーニングをどのような順番で行うべきかが自ずと見えてきます。たとえば、今寝たきりの状態であれば、口からきちんと食事をするのが難しいでしょう。そこで、まずはベッドに座れるようにして、次にその時間を延ばし、体幹が安定してきたら嚥下のトレーニングを本格的に始める、というようにステップを踏んで適切にアプローチすることが重要です。


口周り以外の全身運動も同時に行う

病気によるフレイルではなく、少しむせるくらいの嚥下機能の低下が見られる状態の方に対しては、口周りのトレーニングと共に全身を動かすトレーニングを提案しています。たとえば、体幹筋を強くするためのスクワット、ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)を伸ばすストレッチ、腕を組んで上げることで肋間筋を伸ばす運動などです。また、嚥下機能に関するものでは開口訓練(口を最大限に開けて10秒保持して10秒休憩、これを1セットとして1日に2セット行う)などがあります。

 

 

嚥下機能が少し低下している方であれば、このようなトレーニングを行うことでオーラルフレイルと全身のフレイルが改善していくはずです。特に入院などで廃用症候群(体を動かさないことによって生じる障害の総称)をきたしている場合には、まずは体を動かして廃用症候群を改善することが重要です。


口周りだけでなく心身と社会性にも目を向け、適切なアプローチを

オーラルフレイルは、心身や社会性の虚弱にも深く関わっています。そのため、オーラルフレイルの治療・ケアにおいては口周辺の衰えや問題をみるのではなく、体・心・社会性がどのような状態にあるのかをしっかりと見極め、必要に応じて多面的にアプローチを行うことが重要です。たとえば気持ちが落ち込んでいる状態の方に対して、適切なケアをせずに口だけをトレーニングしようとしてもきっとうまくいかないし、続かないでしょう。ですから、患者さんの口周りの問題だけでなく体・心・社会性の状態を把握し、オーラルフレイルを含めたいくつかの視点から適切に治療・ケアを行う必要があります。

実際に、私は精神的な落ち込みのある患者さんを往診する際、患者さんが興味のある話題などを覚えておき、楽しく会話をしながら精神的なケアに努め、口周りのトレーニングに前向きになれる環境をつくるようにしています。

 

写真:PIXTA


神経疾患の症状である可能性を考慮する

先の記事でもお伝えしたように、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患が原因で口腔機能が低下する場合があります。しかし、一般的な歯科クリニックでは神経疾患の初期症状を見極めることが難しく、適切に診断・治療が行われていないケースも存在すると考えられます。オーラルフレイルを診る可能性がある医療者は、前提として“神経疾患によって口腔機能が低下する場合があること”を理解し、また、口腔周辺に現れやすい神経疾患の症状を勉強しておくことを推奨します。


オーラルフレイルの診療に関する現状の課題

オーラルフレイルは近年新たに概念化されたもので、評価方法や診断は少しずつでき上がりつつありますが、一方で診断後の対応や具体的なアクションについては未完成の部分が多いと感じています。そこで、当教室ではオーラルフレイルに対する予防と治療に関してアクションのパーツになりそうな研究をいくつか進めています。たとえば、嚥下機能と体幹筋・背筋力の関係、マウスピースを口に入れて噛み締める運動による噛む力の向上などです。これらの研究からオーラルフレイルの予防・治療に実用化できるものが出てくるよう、今後も力を注いでいきます。

また、嚥下障害のリハビリテーションなどを行う大学病院などでは口腔機能が低下する神経疾患についてスタッフが勉強しており、患者さんの心身と社会性の問題まで見極めたうえで適切な対応ができるところも増えています。一方で、訪問診療を行う歯科クリニック以外の一般的なところではオーラルフレイルに関する知識や経験が不足していることも多く、適切な対応が難しいケースもあります。今後の課題として、歯科医師や歯科衛生士にも卒前教育のなかでオーラルフレイルを学ぶ機会を設ける必要があるでしょう。


オールラルフレイルや嚥下障害に関する検索・相談先

摂食嚥下関連医療資源マップ”のページでは、嚥下障害に関する治療・ケアを提供している医療機関、嚥下障害やオーラルフレイルの方でも食べやすい食事を提供しているお店やサービス、訪問診療でのインプラントに関して相談できる医療機関の情報などを検索できます。また、嚥下が困難な方に役立つリンク集なども掲載していますので、患者さんやご家族の方はぜひご活用ください。医療機関や店舗の登録も随時募集していますので、取り組まれているところがあればぜひご参加ください。

患者さんやご家族、医療者の方で嚥下障害やオーラルフレイルに関してお困りのことがあれば、同ホームページのお問合せフォームをお使いください。基本的に私が対応し、ご相談をお受けします。

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