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これまでに得た経験の全てで挑む――高齢者医療に貢献し続ける杉山先生の原動力とは

医療法人社団 永生会特別顧問 杉山 陽一先生

杉山 陽一(すぎやま よういち)先生は、医療法人社団 永生会特別顧問をされています。そして、日本老年医学会認定老年科専門医として診療を続けていらっしゃいます。診療以外にも幅広い活動をされている杉山先生に、これまでのあゆみや医師としての思いについてお話を伺いました。


祖父の闘病が医師を目指すきっかけに

手放しで喜べない医療の矛盾に興味が湧いた

私が小学校4年生くらいのころ、祖父が病気で入退院を繰り返すようになりました。ありがたいことに祖父は医師をはじめとする病院スタッフの方々に手厚く診ていただいていましたが、その一方で子どもながらも「なんだかお金が大変そうだな」と感じたのです。

十分な治療をしてもらえたのですから本来は感謝のみで終わるべきでしょう。しかし現実は、経済的な問題がつきまといます。幼いながらに感じたその矛盾が心に引っかかり、「医療に関わってみたい」と思ったことが医師を目指したきっかけです。

 

日本では高齢者医療こそ取り組むべきだと感じ老年科医へ

もともと祖父の病気がきっかけで医師を目指したこともあり、診療科の選択をする際は迷うことなく高齢者医療(老年科)を選びました。高齢になればなるほど必要な支援は増えていきます。しかし、必要な支援が多いほど世間では負担と捉えられることも多く、違和感があります。医療的な負担の観点では社会からポジティブとはいえないイメージを持たれがちな高齢者にスポットライトを当てることは、高齢社会である日本ではなおのこと意義があると考え、高齢者医療に関わる医師を目指しました。


高齢の患者さんを総合的に診る老年科――全人的医療の難しさと面白さ

写真:PIXTA

 

老年科は、高齢の方を総合的に診る診療科です。小児科に対する老年科と考えていただくと分かりやすいかもしれません。心臓の病気であれば循環器科があり、消化器の病気であれば消化器科がありますが、そのどれにも当てはまらない社会的な問題なども全てノンセクションで担当するのが老年科という診療科です。

老年科の患者さんは当然高齢者であり、100歳を超えるような方もいらっしゃいます。人生の大先輩である患者さんたちの立場や生き方などを含めて全て引き受けるには、自分の幅を広げなくてはなりません。医療技術にとどまらない引き出し、いわゆる“総合的な人間力”が試されるのが老年科の難しさであり面白さの1つだと思っています。


悩んだり失敗したりしながら1段ずつ老年科医の階段を上ってきた

経験が成長させてくれる――「YES」の返答がつないだ“今”

人間力が求められる老年科の医師として歩むなかで1つ役に立っているのが、親から教えられた「相手のありがたい思いを断ってはいけない」という考えです。この考えもあり、依頼された仕事は基本的に全て「YES」と返答するようにしています。組織改善・院内システムの立ち上げ・委員会の立ち上げ・同窓会理事……など、これまで多様な仕事を行ってきました。

たとえ医師の仕事とは直接関係のないものであっても、返答は決まっています。中には「私よりも適任がいるはず」と思う仕事もありましたし、全てが最初からスムーズにこなせたわけではありませんが、壁を乗り越えることで自身の成長につながったと感じています。そして、その一つひとつの経験は次の新たな経験との出合いを呼び、”今”の私につながっています。

 

目指すは社会貢献ができる老年科医

当時勤めていた病院での任務を遂行したと感じたタイミングで転職をしたのが、現在勤める永生病院です。いただいている特別顧問という役割は、端的に言うと“意見具申(いけんぐしん)をすること”です。組織に属していると、思っていてもなかなか言えないこともあるでしょう。その言いにくい疑問や違和感を臆せず伝えるのが、もともと組織の外で経験を積んできた私の役割です。安藤 高夫(あんどう たかお)理事長の度量の広さのおかげではありますが、お会いするたびに膨大な量の意見をしています。

決定権があるのは理事長であり、「突拍子もないことを言っているな」と思われていることもあるかもしれません。それでも私が日々意見を伝え続けるのは、医師を目指したころから抱いていた“社会貢献がしたい”という思いがあるためです。


隠れた課題に気付けるのは専門外だからこそできること

現在、永生病院では特別顧問という役割をいただいていますが、診療や当直も変わらず続けており、病棟で40名ほどの患者さんを担当しています。そのほかにも、グループ施設の業務改善を図ったり、コラムの執筆をしたり、時には人前で歌ったりするようなこともあります。ありがたいことにさまざまな依頼をいただきますが、老年科の業務以外は全て専門外です。診療においても、手術や内視鏡など専門性の高い治療ができるわけではありません。ただ、専門外だからこそできることがあると思っています。もちろん病気の治療は大切です。しかし、目の前の患者さんは病気以外の問題も抱えているかもしれません。それこそ経済的な部分であったり、薬の多さに悩んでいたりする可能性もあります。専門的な診療ではつい忘れ去られてしまいがちな問題にも焦点を当てられるのは老年科医だからこそできることです。隠れた課題にも気付けるような医師として、これからも歩みを止めることなく慢性期医療、そして社会へも貢献ができればと思っています。


経験は武器になり、可能性を切り開く手段になる――若手医師へのメッセージ

人生100年時代といわれていますし、せっかく医師をするのであれば、領域を狭めすぎずに学ぶことが大切だと思います。先述のとおり、私もたくさんの経験をしてきました。手当たり次第に学ぶことはおすすめしませんが、視野を広げておくことで、後々の選択にも変化が生まれるかもしれません。キャリアを積んでいくうえで何かを選択するということは、何かを捨てることになります。そのなかでできるだけ武器を捨てない選択ができるのは、老年科を含む慢性期医療の魅力だと感じています。

もちろん向き・不向きは人それぞれですし、全員が慢性期医療を目指す必要はありませんが、手持ちの武器を増やしておくことは医師としての可能性を広げることに大いに役立つでしょう。将来の選択にかかわらず、ぜひいろいろな経験をしていただきたいなと思いますし、私自身もその“経験”をしている最中です。

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