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これからの医療に必要な変化とは? 慢性期医療の専門家が考えるあるべき現場の姿

京浜病院 院長 熊谷賴佳先生

新型コロナウイルス感染拡大により外来患者数が減少し、それに伴って多くの民間病院が存立の危機を迎えることが予想されています。この危機を乗り越えるためには、各施設が“これから何を選択し、どのように考えるか”が重要だと、日本慢性期医療協会常任理事、京浜病院院長の熊谷 賴佳(くまがい よりよし)先生は言います。

今回は、医療の現場では今後どのような変化が必要なのか、熊谷先生に伺いました。


野生動物を感染源とした感染症の拡大が世界を変えた

新型コロナウイルスの発生源について、いまだ事実は不明ですが、武漢市の市場から広がったといわれています。中国には野生動物を食する習慣が根付いており、市場のコウモリから人間に感染したのではないかという説です。過去にはSARSウイルス、MERSウイルスも、野生動物が感染源と疑われてきました。事実であれば、本来生息すべき地を離れた野生動物の持ち込みが、またもや人類に悲劇をもたらしたことになります。

また、感染症を専門とする医師や研究者がごく少数であることも、感染拡大の背景にあると考えられます。日本には、北里 柴三郎(きたざと しばさぶろう)、野口 英世(のぐち ひでよ)、志賀 潔(しが きよし)らが感染症の分野で世界をリードしてきた歴史がありますが、現在は、新型コロナウイルス感染症のようにまれな病気を専門とする病院は減っています。日本において感染拡大が抑えられたのは、先人の遺徳による幸運だったといえるのではないでしょうか。


優先すべきは生命か経済か

グローバル化が進み人・物・金が行き来する現代では、世界中が密に接触しています。感染が瞬く間に拡大するのは当然です。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議でも言われていたように、感染の拡大を抑えて生命を守るには、経済や人との交流、物流などを止めて、外出を自粛するしかありません。

ただし、その方法を選べば、引き換えに経済の崩壊は避けられません。それでは生き延びても意味がないというのが、今回のコロナウイルス感染症の対策に関する経済界の意見でした。少数の患者を救うために大多数の人たちの生活を壊す必要があるのかという論理です。

医師が最優先にするのは、“生命は何よりも尊い”という医療理念に基づいて命を助けることです。しかし今回のコロナ騒動で、少なくともそれが最良の手段とは言えなくなりました。今、生命の重さと経済の維持という相反する2つの観念の落としどころを探ることが、医師に求められているのかもしれません。「患者さんを救わない」という選択肢も考えなければならなくなるでしょう。根本から医療理念を考え直さなければならなくなる、非常に重い課題です。


危機を自分事として捉え、何を選択するかが重要

今後、民間病院は存立の危機を迎えることが予想されます。この危機を乗り越えるために多くの民間病院は、自己防衛として新型コロナウイルス感染者の受け入れを行わないという選択をするのではないかと考えています。

しかしそれでは、効率的な医療提供体制を実現するために進めてきた、病床の機能分化や連携の取り組みは崩壊するでしょう。今後は、高度急性期病院から一般急性期病院、慢性期病院、介護施設を一体的に運営することが求められるのではないかと思います。それを実現するには、各施設の機能を知り、さらなる連携を図ることが重要です。

このような状況下において大切なことは、新型コロナウイルスへの対策を自分事として考えることではないでしょうか。“適者生存”という言葉があるように、これまでの医療体制に依存することなく、世の中が何を求めているのか考え、病院の機能や診療科も変えるほどの覚悟を決めることが、生き残る鍵になるのではないかと思います。


新型コロナウイルスから高齢者を守る医療

 

これからのコロナ対策として、無自覚・無症状感染者が感染を広げていることに注目することは重要です。ただし、感染者を悪として扱うのではありません。「免疫を獲得している」と捉えて、医療現場の最前線で働いてもらうなど生かすことができるのではないかと思っています。

一方、新型コロナウイルスへの感染が心配なのは高齢者です。従来は安全な場所に隔離すべきだという発想が多かったのですが、身の回りの世話をする看護師や介護士が安全でなければ意味がありません。感染の疑いがある人は接触させないことや、免疫を持った子どもや若者だけを高齢者の傍に行かせることを徹底し、高齢者を守るべきだと考えています。

高齢者の立場で考えると、もしも新型コロナに感染した場合は自然の摂理として受け止め、重症化しても延命治療は望まないという選択肢もあり得ると思っています。私が接してきた高齢者は「周りに迷惑をかけたくない」と皆さんおっしゃいます。重症化した状態から回復して後遺症が残ったり、周囲の人に経済的な負担をかけたりするくらいなら、特別な治療は要らないと宣言するという選択肢もあるのではないでしょうか。


最期の考え方――人間の尊厳を守る医療とは何か

感染症予防の大原則は患者隔離であり、感染症から身を守るためには感染源との非接触を徹底しなければなりません。しかし、新型コロナウイルスに感染した患者さんは、ひとたび入院すると家族の面会を受けられず、死に目にも会えないのだといいます。これは、あまりにも非人道的な最期ではないでしょうか。

死ぬときは家族に囲まれ、お別れを言ったり、感謝を述べたりするのが人間らしい最期だとすれば、そのような場面をつくることが、人間の尊厳を守ることだと私は考えています。

私たち慢性期医療に携わる医療従事者は、患者さんが望む人生の最終段階の医療やケアについて話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)に取り組んでいます。希望どおりにいかないことも多々ありますが、ご家族にも患者さんにも「これでよかったんじゃないかな」と思ってもらえるよう力を尽くし、人間らしい最期を迎えてもらう努力を続けてきた自負があります。

その自負のもとに言うとしたら、現在の新型コロナウイルス感染症の治療はやはり間違っていると思います。ガラス越しでも、テレビのモニター越しでもよいから家族に見守ってもらい、感染しない状況でお別れを言えるような状況をつくっていくべきです。パネル越しに手袋を使ってPCR検査ができるなら、患者さんと手を握れる環境をつくることもできるはずです。自分の身を守るための方法だけでなく、最期を見送ってあげるための方法を模索することが必要なのだと思います。

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