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これからの医療にとって重要なACP(アドバンス・ケア・プランニング)

池端病院 院長 池端幸彦先生

「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」とは、将来のケア(治療・療養)について、患者さん・ご家族と医療従事者が事前に話し合うプロセスを指します。さまざまな機能が求められる慢性期病院において、人生の最終段階における医療・ケアの方針決定プロセス、すなわちACPは、避けて通ることのできない重要なテーマといえるでしょう。多機能型慢性期病院のロールモデルを目指す池端病院で院長を務める池端幸彦先生に、ACPのポイントや実践例についてお話を伺いました。


ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?

将来のケアについて患者さんや家族、医療従事者が事前に話し合うプロセス

ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)とは、将来のケア(治療・療養)について、患者さん・ご家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスを指します。ACPの目的は、重篤な病気や慢性疾患をお持ちの患者さんに対して、患者さんの人生観や価値観、希望を、将来行うケアに反映させることです。2018年末には、このACPの愛称として「人生会議」という名称が提唱されています。

 

心身や環境の変化に応じて、患者さんの意思は変化しうるため、ACPは、健康状態や生活状況が変わるごとに、繰り返し行われるべきです。また、患者さん自ら意思決定ができなくなったときに備えて、本人に代わって意思決定を行う信頼できる人(人々)を選定しておくことも大切です。


池端先生が考える、ACPのポイントとは?

医療従事者は専門家として最善の方針をとるための舵取りを行う

慢性期医療の現場で、ACPは重要なテーマです。基本的に、年齢だけを基準に治療を制限する必要はないと考えています。ACPにおいて、私たちは、患者さんのADL(日常生活動作)、生き方、希望を客観的に考慮し、専門家として、医療、介護、栄養、リハビリなどそれぞれの立場から、必要に応じてケアに関する提案や判断を行う役割があります。

 

患者さんが継続的な治療を希望する場合には、徹底的に治療を行い、もとの生活に戻すことを目指します。治療を希望しない場合には、患者さんの意向に合わせたケアを行います。ただし、たとえ本人やご家族が望まなくとも、治療を継続すればよくなると判断した場合には、私たちは専門家として介入し、治療の継続を提案する役目があります。私たちは、ただの御用聞きになるのではなく、医療・ケアの専門家として、最善の方針をとるための情報提供や、ときにはその舵取りを行う使命があります。

 

ACPは状況が変わるごとに繰り返し行うことが大切

ACPにおいて、まずは患者さんとご家族、専門職が一堂に会し、現状と患者さんの意思を共有します。そして、どのようにケアをしていくのかを話し合い、方針を決定します。

 

一度方針を決めたら終わりではなく、患者さんの状況が変化するたびにACPを繰り返します。数回にわたりACPを行うなかで、自然と方針が見えてくるようになったり、患者さんやご家族の不安が解消されたりします。

 

このように、ACPは、患者さんの状況が変わるたびに繰り返す必要があり、また、そのプロセスそのものが大切なのです。


ACP(人生会議)の実践例−理想的なACPとは?

80代男性、慢性心不全を抱える患者さんの例

ここで、ACPの実践例をご紹介したいと思います。

80代男性、慢性心不全を抱える患者さんです。慢性心不全の急性増悪を起こし、最初は2か月ほどの入院で回復し、元気に過ごされていました。しかし急性増悪を繰り返すうちにだんだんと自立度が低下していき、介護が必要になったため、通所サービスでリハビリを行っていましたが、しばらくして通所も困難になり、経口摂取も難しくなってきました。

 

そのとき、奥様が「私はこのまま見ているだけでよいのでしょうか。とても不安です」といわれたため、一度みんなで話し合う時間をつくりました。ご本人はとても苦しそうにしていたため正確な意思確認ができる状態ではないと判断し、奥様と息子さんに入っていただき、さらに通所サービスと訪問看護のスタッフ、ケアマネジャーと私も加わり、ACPを実施しました。

 

患者さんの希望をもとにケアの方針を検討する

患者さんのご家族と現状の共有を経て、私が口火を切りました。

「寿命が徐々に近づいているようです。今、経口摂取が難しく、栄養が不足しているため、体力が低下しています。このまま口から食べることを優先すれば、あと1〜2週間で命が尽きる可能性があります。一方で、点滴による栄養摂取か、あるいは胃ろうを入れることで再び元気になる可能性もあります。どうしましょうか。ご本人は、どのように希望されると思われますか」と私がご家族に尋ねると、奥様は、「主人は、家で最期まで過ごしたい。胃ろうも絶対にするな、と言っていた」と話し、息子さんも賛同されました。

結果的には、ご本人の意思を尊重し、点滴を行わずに、できるだけ口から食事を続けることを決めました。

 

患者さんが望む形で、静かに最期を迎えることができた

それから、一度は自分で食事ができるまでに回復しました。しかし、再び状態が悪化したタイミングで、今度は娘さんも入っていただき、再度ACPを行いました。それから少し経ったある朝に、患者さんは自宅で静かに息を引き取りました。

 

このケースでは、患者さんの望みどおり自宅で命を全うし、ご家族はみな納得して患者さんの最期を受け入れました。患者さん本人の意思を、ご家族のみなさんが把握されていて、状況が変わるごとにその意思に基づいて判断できた理想的なACPの一例だと思います。

 

ACPは、慢性期医療の現場において、重要なテーマです。当院では、患者さんやご家族と繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思を尊重した医療およびケアを提供します。そして、人生の最終段階においても、患者さんの尊厳ある生き方を実現することに、職員一同力を尽くします。

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