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「活動性を育む、攻めのリハビリテーション医療」とは? 起立と運動の重要性

和歌山県立医科大学 田島文博先生

日本において、高齢化の進行と医学の発展によって平均余命は延伸し、障害を持ちながら生活する方が徐々に増加しています。そのような中、疾病や怪我の治療のみならず、患者さんの能力改善に取り組むリハビリテーションの必要性は徐々に高まっています。

田島文博先生は、和歌山県立医科大学で「攻めのリハビリテーション医療」に積極的に取り組んでいます。リハビリテーション治療における起立と運動の重要性と共に、その哲学を伺いました。


「活動性を育む、攻めのリハビリテーション医療」とは?

  • 活動性は、人の尊厳にかかわるもの

誤解を恐れずにいえば、人としての尊厳は「動くこと(活動性)」と「精神活動」で保たれます。

もし家族が脳梗塞で倒れたとしたら、あなたは何を気にかけるでしょうか。まず、「命は助かるのか?」、それから「意識は保たれるのか?」「動けるのか?」、治療が終われば、「歩けるのか?」「自分で食事ができるのか?」「トイレには行けるのか?」−このような疑問が湧いてくると思います。これらは、主に人の活動性に関連するものです。

 

  • 起立、運動のリハビリテーション治療が活動性を育む!

では、人の活動性は、どのように改善されるのでしょう。手術か、それとも投薬でしょうか。私はここで、「リハビリテーション治療が活動性を改善する」ことを強く主張したいと思います。具体的には「起立」と「運動」です。まずはこれらが大切です。


リハビリにおける「起立」の重要性

  • 寝たきりは体にさまざまな悪影響を及ぼす

人が寝たきりの状態を続けたら、どうなるのでしょう。

 

起立中には重力負荷がかかりますが、宇宙は無重力状態です。つまり、宇宙空間で過ごすことは究極の「寝たきり状態」であるといえます。

1970年にソユーズ9号という宇宙船が打ち上げられ、乗船していた宇宙飛行士が18日間に及ぶ宇宙滞在を成し遂げました。地球に帰還した宇宙飛行士は、自力で立ち上がれないほど体力が低下していた。

 

重力の少ない状態が体にどのような影響を及ぼすかを調べる「ダラス・ベッドレスト実験」では、数週間〜数か月間の微小重力環境(重力の少ない状態)によって、骨密度や心肺機能の低下など、さまざまな影響が現れることが指摘されています。

 

【ベッドレストの影響】

✓骨密度低下

✓心肺能力・筋力の低下

✓巧緻性(手先の器用さ)の低下

✓精神機能低下

✓血管コンプライアンスの低下

✓内分泌・自律神経応答不良

✓体液量・循環血液量低下

 

  • 病院のベッドで同じようなことが起こっていないか?

もし病院内のベッドで患者さんが長期間寝たきりでいたなら、このような種々の影響が現れたとしても何らおかしくはありません。リハビリテーション医学の観点からは、起立や運動による負荷よりも、安静にしすぎることの方が恐ろしいのです。ですから、リハビリテーション治療中は患者さんの体を積極的に起こし、適切な量の運動を行います。

 

リハビリテーション医療を行う際は、医師による診察、検査、診断は大前提です。そして、熟練した理学療法士、作業療法士による訓練、さらには熟練したリハビリテーション看護が揃って、初めて「適切なリハビリテーション医療」が成立します。


私たちの体はどのように生命を維持しているのか?

  • 細胞は自分のタンパク質をリサイクルしてその品質を維持する

生物の基本単位は「細胞」です。


細胞は、その品質を保つために、成人で1日約160〜200gのタンパク質を合成しています。実は、その材料となるのは、食事から摂取・吸収したアミノ酸だけではなく、自分のタンパク質の一部を分解したアミノ酸なのです。つまり、ヒトは自らのタンパク質をリサイクルして、その品質を保っているといえます。


このように、私たちの体は刻々とダイナミックにアミノ酸レベルで細胞の構成物を変えながら、生命を維持しています。


リハビリテーション治療における「運動」の重要性について

  • 運動がさまざまな病気に対する治療効果をもたらす

マイオカインについてご説明します。マイオカインとは、骨格筋から分泌されるサイトカイン(細胞から分泌され、細胞間の相互作用に関与するタンパクの総称)です。

 

運動をすると骨格筋から血中にマイオカインが分泌され、免疫細胞を呼び寄せ、炎症を抑えたり、筋肉へのインスリン作用を改善させたりします。このように、筋肉はマイオカインによって体全体の健康を調節しており、運動がさまざまな病気に対する治療効果をもたらすといわれています。

 

これまで、リハビリテーション治療における起立と運動の重要性についてお話ししてきました。

次の記事では、和歌山県立医科大学での実践などをご説明します。

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