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「アルツハイマー病」と診断されている人の一部はSNAPである—認知症診断における最新の知見

金沢大学附属病院 山田正仁先生

世界でも類を見ない超高齢社会となった日本で、認知症の患者数は増加の一途を辿っています。近年の研究によって、認知症のおよそ6割を占める「アルツハイマー病」と診断される患者さんのなかには「SNAP(Suspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology:非アルツハイマー病の病態生理の疑い)」と呼ばれる病態が含まれることが明らかになりました。認知症の診療にかかわる医療従事者にとって、今後、アルツハイマー病とSNAPの鑑別は非常に重要になるでしょう。


認知症の診断—基本となる考え方は?

病気の経過と認知機能をきちんと評価し、原因を突き止めること

認知症診断の基本は、以下のとおりです。

 

  • 病気の経過を把握する
  • 認知機能をしっかりと評価する
  • 認知症の原因となる病気を突き止める

 

記事1でお話ししたように、認知症にはさまざまな原因となる病気があり、それぞれ治療法が異なります。

 

認知症のおもな原因疾患

  • アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)
  • 脳血管性認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭葉型認知症
  • そのほか(嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症など)


認知症の診断・治療は今、こう変わっている

SNAPの発見。アルツハイマー型認知症に似ているが異なる病気

認知症のもっとも多くを占めるアルツハイマー病は、脳に「アミロイドβ」というタンパク質が異常蓄積することが中心的特徴です。

 

ところが、近年の研究でアミロイドβの検査技術が進み、アルツハイマー病と診断される患者さんのうち一定の割合はアミロイドβの異常蓄積を認めない、つまり似ているが異なる病気であることが明らかになりました。

 

このように、アミロイドβは正常レベルでありながらアルツハイマー病に似た神経変性を示す病態を「SNAP(Suspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology:非アルツハイマー病の病態生理の疑い)」と呼びます。

 

SNAPにはいくつかの病態が含まれますが、アルツハイマー型認知症よりも進行が遅いという特徴があります。SNAPは、認知機能が正常な高齢者のうち2〜3割前後を占めるとされています。

 

抗アミロイドβ薬の開発が進めば、より正確な診断が必要に

2018年現在、アルツハイマー病に対して根本的な治療薬はなく、症状を緩和するための薬にとどまっています。

 

しかし、脳に溜まったアミロイドβに対する薬の開発が進められています。もし、この薬が実用化に至った場合、アルツハイマー病とSNAPをきちんと診断する必要が強く生じます。

 

なぜなら、SNAPを誤ってアルツハイマー病と診断し、抗アミロイドβ薬による治療を行なった場合、もともとアミロイドβは正常レベルであるため、症状改善は期待できず、薬剤による副作用のみが起こる可能性があるからです。

 

以上の展望をふまえて、現在は、アミロイドβの蓄積を確認する診断方法として、PET(陽電子放出撮影法)によるアミロイドPET検査、脳脊髄液中のアミロイドβ測定などが行われ(保険適用外)、さらに血液中のアミロイドマーカーの研究が進められています。


治療が可能な認知症はあるの?

認知症の種類によっては、以下のとおり、治療が可能なものも存在します。

 

慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症など—脳外科的な治療

慢性硬膜下血腫や特発性正常圧水頭症を原因とする認知症は、脳外科的な治療が可能なケースがあります。

慢性硬膜下血腫は、頭部外傷後慢性期(通常1~2か月後)に、頭蓋骨の下にある脳を覆う硬膜と脳との間に血(血腫)がたまる病気です。

血腫が脳を圧迫することにより種々の症状がみられ、そのひとつとして精神症状(認知症)を発症することがあります。外傷歴がはっきりしないこともあるため、注意が必要です。

 

正常圧水頭症は、頭蓋内圧は正常値を示すが、脳室あるいは頭蓋内腔に異常な大量の髄液がたまった状態を指します。このうち、明らかな原因となる病気を認めないものを「特発性正常圧水頭症」と呼びます。特発性正常圧水頭症は、高齢者に多くみられ、歩行障害、認知症、尿失禁がみられます。

 

内科的な治療が可能

ビタミンB1欠乏症、甲状腺機能低下症などを原因とする認知症(あるいは認知機能の障害)については、内科的な治療が可能です。

 

ビタミンB1欠乏症は、その名のとおり、ビタミンB1の欠乏によって、さまざまな症状があらわれる病気です。進行するとウェルニッケ脳症を発症することがあり、症状のひとつとして認知機能の障害が起こります。

 

甲状腺機能低下症は、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンの血中濃度が低下することで、種々の症状をきたす、高齢者に多くみられる病気です。

錯乱、もの忘れなど、認知症と間違えられやすい徴候が生じることがあります。臨床症状だけでは甲状腺機能低下症を識別することが難しいケースも多いため、スクリーニング検査などを通して、きちんと診断することが重要となります。


認知症に携わる医療従事者へのメッセージ

診断の意義は大きい。SNAPの存在を認識してほしい

これまでご説明したように、認知症診断の研究は日々進展しています。

あらゆる病気は、当然ながら原因によって治療法が異なります。よって、「病気を正しく診断できるか」は、その後の治療や予後の予測を大きく左右するといっても過言ではないでしょう。

 

認知症に携わる医療従事者には「今、私たちがアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)と臨床診断しているもののなかに、SNAPが含まれている」ということを知っていただきたいです。

また、きちんと診断をすることで、現時点でも根本的な治療が可能なものを見逃さないようにしていただきたいと考えます。

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