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デジタルツールの活用による効率的な病院運営――次世代によいものを残すために

医療法人 大寿会 理事長 大戸 将司さん

少子高齢化により労働人口は今後減少することが予測されており、医療・介護サービスを安定的に提供していくうえでは人材確保が大きな課題になります。医療法人 大寿会では人材確保がさらに困難となる時期が訪れる前に、可能な業務はできる限り省力化・自動化・無人化することを目指して、積極的にデジタルツールを導入し業務に活用しています。

今回は、具体的な取り組みやそれによって得られた効果、業務の効率化を進める思いなどについて、医療法人 大寿会 理事長の大戸 将司(おおと しょうじ)さんにお話を伺いました。


幅広い地域から患者さんを受け入れる

当法人は大阪府枚方市に位置し、医療療養病棟385床の大寿会病院と、隣接する入所定員150名の介護老人保健施設ユートピアを運営しています(2025年4月時点)。ユートピアでは通所でのリハビリテーションも40名受け入れています。

大寿会病院を設立した1988年ごろは近隣に急性期病院が多かったため、慢性期に移行した地域の患者さんの受け皿としての役割を果たしてきました。その後2000年に介護保険制度が開始したことを受け、2004年にユートピアを設立しました。現在は近隣にも高齢者向けの施設が増えてきたため、車で2時間ほどの地域まで範囲を広げ、西は岡山県から東は愛知県、北は石川県からも患者さんを受け入れています。


デジタル化の契機はWi-Fi整備

当法人では、医療・介護サービスを安定して提供し続けるためにデジタル化の取り組みを始めています。日本全体で懸念されている労働人口の減少により、今後人材確保がさらに困難となることが予想されます。そこで、あらかじめ可能な業務はできる限り省力化、自動化、無人化できるように取り組みを始めました。

大きなきっかけとなったのは、電子カルテ導入前の準備として2019年に施設内全てをカバーできるWi-Fiを整備したことです。これを契機にアナログだった業務が急速にデジタルへと大きく変化していきました。


デジタルツール導入による業務の効率化

「自分たちのペースで仕事をできるようにしよう」

Wi-Fiの導入前は、法人内にあるパソコンは理事長である私の部屋に1台と医事課のレセプトコンピューターの数台で、事務処理は紙、会議は全て対面と典型的なアナログ法人でした。

電子カルテを導入するにあたり、準備のために事務スタッフと話し合いをする機会が増えました。多くの人を巻き込みたかったので私が事務室に赴くことが多かったのですが、その場で事務スタッフの業務がいかに煩雑か目の当たりにすることになったのです。外線の電話や病棟からのPHSの着信、打ち合わせともいえないような立ち話、物品を探すスタッフや外部の配達業者への対応……例を挙げれば枚挙にいとまがありませんが、細々としたタスクによって話し合いがたびたび中断されてしまいます。このような状況では事務スタッフが集中して仕事に取り組むことはできません。

そこで、総務課では「自分たちのペースで仕事をできるようにする」という目標を掲げ、どうしたらそれを達成できるかを考えてもらうことにしました。事務スタッフの集中を阻害する要因として挙げられたのは電話と対面での対応です。そこで「どうしたら電話を減らせるか」「どうしたら対面の回数を減らせるか」を一生懸命検討してもらった結果、その手段がデジタルだったというわけです。

 

LINEの活用で電話交換業務は激減

外線の電話については、LINEの活用により大幅な省力化が実現できました。全ての患者さんのご家族には入院時にLINEの“友だち登録”を行っていただき、連絡が必要な際は代表電話への架電ではなく、LINE通話で病棟に直接連絡するようにお願いしています。緊急性が高くない内容についてはトーク機能を活用して文字でやりとりすることもあります。また、患者さんのご家族に病棟・事務・リハビリテーション科の3部門を加えたLINEグループも作成して、必要な書類の確認・共有や署名の取得に活用しています。これにより電話の機会そのものが減少し、不在着信に対するかけ直しも少なくなったことから、電話交換業務は激減しました。

法人内の電話や対面のやりとりの削減には、サイボウズが大きな役割を果たしています。サイボウズ内には、情報共有のためのスレッド機能、スケジュール管理機能、決裁の簡略化が可能なワークフロー機能などさまざまな機能があります。法人内のできるだけ多くの人に権限を付与して、口頭や電話でのやりとりは制限し情報共有はサイボウズ内で行うことを徹底しました。また、法人内の会議もほとんどをZoomを利用したオンライン開催としているため、資料はサイボウズ内で管理されているファイルや関連スレッドを共有するのみで完結します。資料の印刷などの準備や会場設営も不要になったため、事務スタッフの負担が大幅に軽減されました。

 

電子カルテ活用でケアの質の向上も

電子カルテは2021年に導入しました。ベンチャー企業が提供するクラウド型の電子カルテで、安価で幅広いカスタマイズに対応可能である点がメリットです。病棟ではスマートフォン・タブレット・ノートパソコンと3種類のデバイスから電子カルテを使用しています。全ての端末がWi-Fiに接続されているため、Googleで検索して必要な資料を参照したり、さまざまなアプリケーションを活用したりすることができます。たとえば、以前は褥瘡(じょくそう)などで患部の状態を記録する際は、イラストを描いたり大きさを測定してメモしたりする必要がありましたが、電子カルテを導入してからは端末のカメラで撮影してアップロードすればよいのでとても便利になりました。デジタル化により業務が効率化されることで、提供するケアの質の向上にもつながっていくと考えています。

当然のことですが、電子カルテでは患者さんの個人情報を扱うためセキュリティ対策には万全を期しています。


無駄を削減し、限られた資源を有効に活用する

デジタル化に限らず、できるだけ無駄を削減して限られた資源を有効に活用することは、次の世代のためにも大切だと考えています。当法人のスタッフは医療・介護以外の分野の展示会などにもよく参加しています。異なる業界で評価されている知見や広く世の中で受け入れられているものを上手く取り入れて活用していくことが大切だと考えているからです。

たとえば、当法人ではホームセンターなどで入手できる比較的安価な材料を活用して、自ら開発したシャワー浴設備「Terumae」を使用しています。シンプルな構造で耐食性に優れたフレームを使用しているため壊れにくく、電気系統を使用していないため機械不良や故障などのリスクがほぼありません。通常の特殊浴の設備と比較してメンテナンスのコストや手間は大幅に削減されており、ケアを実施するスタッフにも好評です。

写真提供:大戸将司先生

浴室に設置されているシャワーのカランを「Terumae」のフレームに接続すると上部からお湯が出る。周囲はシャワーカーテンで、上部はビート板に用いられる素材で囲って使用するので、湯気が逃げず保温効果も十分にある。専用のストレッチャーも必要ない。


次の世代によいものを残していくために

冒頭でも述べたように、今後の労働人口減少は医療・介護サービスを安定的に供給していくうえでの大きな課題です。私は人材確保、特に入職後の定着率を向上させていくことが大切だと考えています。デジタル化を含め、できるだけ業務を効率化してスタッフの負担を軽減することで、働きやすい環境をつくっていきたいと思っています。サイボウズの活用を開始してからは、法人運営に関するさまざまなデータ、たとえば工事を業者に発注する際の見積書などもスタッフが閲覧できるようにしました。情報を開示することで「本当にこれが適切なのか」「自分たちでできることはないか」と能動的に考えてくれる場面も増えてきています。「次の世代によいものを残す」ことを目標にこれからも取り組みを続けていきたいと思います。

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