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認知症と間違えやすい“高齢発症てんかん” そのポイントと治療

新宿神経クリニック 院長 渡辺雅子先生

てんかんは、神経疾患の中ではもっとも頻度が高い病気のひとつで、1,000人当たり5~10人の割合でみられます。一生のうち1回でも発作を経験する人の割合は人口の約10%で、日本には約100万人のてんかん患者さんがいます。このように私たちの身近にあるてんかんは、65歳以上になると年齢とともに発症率が上がりますが、その症状から、認知症と誤診されてしまうことがあります。

てんかんを専門として患者さんの診療に従事する、新宿神経クリニック 院長の渡辺 雅子(わたなべ まさこ)先生に、高齢発症てんかんのポイントとその治療についてお話を伺いました。


高齢発症のてんかん――そのポイントとは?

徐々に増えている“高齢発症のてんかん”

てんかんとは、脳内にある神経細胞の異常な電気的興奮に伴い、発作的にけいれんや意識障害などを起こす慢性的な病気です。脳のどの部分で異常な興奮が起こるかによって、症状も異なります。てんかんは“子どもの病気”と誤解されることがありますが、乳幼児から高齢の方までどのような年代にも発病する可能性があります。さらに、先進国において小児のてんかん発症率は減少傾向にあり、 65歳以上では年齢とともに発症率が高くなります。

本記事では、65歳以上で新規に発症するてんかんを“高齢発症のてんかん”とします。

 

てんかん患者さんの一部は、その症状から認知症と誤診されるケースがある

高齢発症のてんかんは、若年とは臨床像や検査所見が異なり、さらに鑑別すべき病気も多岐にわたるため診断が難しくなります。高齢化が進展し、今後も高齢発症のてんかんが増加していくと予想されるなかで、高齢の方の診療にあたる医療者がてんかんに関する知見を深め、適切に診療を行うことの重要性は高いでしょう。

 

高齢で発症するてんかんの多くは、脳卒中後や認知症を原因とする症候性(原因が特定、推定できるもの)の部分てんかんです。それらの原因がなく発病される部分てんかんの方も4割ほどいらっしゃいます。また、日本では高齢の方における部分てんかんの焦点は側頭葉がもっとも多く、次が前頭葉です。側頭葉てんかんが多いと、四肢や顔のけいれん発作ではなく、複雑部分発作の特徴である意識減損(一点を凝視したまま反応がなくなる)や自動症(口を動かしてペチャペチャと音を出す、手をモゾモゾと動かすなど)が見られます。また、前兆として上腹部の不快感、既視感や未視感(一度体験しているにもかかわらず初めてのような気がする)などの精神症状を伴うことがあります。

 

このように、意識減損を伴う複雑部分発作の症状が認知症のように見えることから、一部のてんかん患者さんは認知症を疑われ、物忘れを主訴として外来を受診されるケースがあります。

しかし、記憶障害にはいくつかあり、加齢に伴うもの忘れ、認知症に伴う記憶障害、てんかんに伴う記憶障害にはそれぞれ違いがあります。まず、加齢に伴って自然に起こる物忘れ(良性健忘)は、“昨日食事したレストランの名前”など、出来事の一部を忘れてしまいますが、ヒントを与えられると思い出せます。しかし、認知症に伴う記憶障害は、“昨日レストランで食事したこと自体”といったように出来事そのものを忘れてしまうため、ヒントを与えられても思い出せません。そして、てんかんでは、自伝的記憶(自分の歴史に関わる出来事の記憶)を忘れてしまう遠隔記憶障害が起こることがあります。

このような違いからもわかるように、“物忘れ=認知症”ではないことを医療者と一般市民の皆さんに知っていただきたいです。また、認知症と診断されている方の中にてんかんの症例が隠れており、見過ごされているとしたら、“治療可能な認知症“のひとつとしてきちんと鑑別することの重要性は高いと考えています。


高齢発症のてんかんに対する治療

第一選択は、抗てんかん薬による薬物療法

てんかんに対する治療の中心は、薬物療法です。

高齢発症のてんかんは、抗てんかん薬(単剤、低投与量)の治療反応性が良好であることが分かっています。抗てんかん薬による薬物療法を行った場合、発作の寛解率は70〜80%で、薬物療法に抵抗性のある難治性てんかんは30%ほどです。近年、抗てんかん薬の進歩は著しく、新規薬が次々に登場しています。

 

高齢発症のてんかんで起こる部分発作の第一選択薬として、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチンが推奨されますが、一方、合併症、併存症がある場合には、カルバマゼピンは外れ、ラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチンが推奨されます。

 

抗てんかん薬の副作用とは?――高齢発症の場合に注意するべきこと

抗てんかん薬の副作用には、いわゆるアレルギー反応、神経系の抑制による副作用、長期服用による副作用などがあります。

 

多くの抗てんかん薬に共通する副作用として、眠気、ふらつきが挙げられ、高齢発症の場合には、これらの副作用により転倒、骨折のリスクが増加する可能性があります。また、加齢に伴って薬物動態*が変化することにも留意せねばなりません。たとえば、加齢により肝臓の体積と血流量は減少し、腎機能も低下します。カルバマゼピン、バルプロ酸などは肝代謝、レベチラセタム、ガバペンチンは腎代謝、ラモトリギンなどは肝腎代謝であることを考慮し、患者さんの持つ機能に応じて用量調整が必要です。

また、高齢になるとアルブミンの血中濃度が低下するため、同じ投与量でも抗てんかん薬の効果が現れやすく、また、副作用も生じやすくなる点に注意して投与量を調整します。

 

*薬物動態:投与された薬が体内に取り込まれ、最終的に治療効果や副作用を示すまでのメカニズム


「てんかんかも?」と思ったら――家族にできること

人生の大切な思い出が失われていくことを防ぐために、もしご家族などにてんかんを疑う方がいた場合には、できるだけ早めに医療機関を受診するよう呼びかけましょう。神経内科、脳神経外科、精神科の受診を推奨しますが、全ての医師がてんかんに詳しいとは限りません。可能であれば、てんかんの診療に専門性を有するてんかん専門医(日本てんかん学会認定)に診察してもらうことが望ましいです。

 

写真:Pixta

 

受診の際は、発作中の様子をよく知っているご家族が同行してください。発作時の詳しいお話を伺うことができれば、その状況を踏まえて診断できます。また、発作中の様子を動画で撮影し、診察の際に持参していただくのもよいでしょう。そのような動画は、適切な診断を行ううえで貴重な情報となるからです。

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