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「患者さん一人ひとりの人生を共有できる」在宅医療・慢性期医療の魅力

いばらき診療所 理事長 照沼秀也先生

茨城県内で複数の施設を展開する、照沼秀也先生。もともと外科医だった照沼先生は1996年にいばらき診療所を開設し、以来、「住み慣れた自宅でずっと暮らしたいと希望する方々を支えたい」という思いで、在宅医療や訪問診療を中心に患者さんやそのご家族をサポートしています。


なぜ医師を志したのか

  • 「妹の役に立つ、平たい医師になりたい」という思いから

医師を志したのは、子どもの頃、妹が風邪をひいたときに診てあげられる医師になりたいと思ったことがきっかけです。

 

6つ年の離れた妹はダウン症で幼い頃から体が弱かったのですが、当時は特別支援学級のようなクラスがなかったため一般の小学校に通っていました。障害を持った子どもは周囲の目に奇異に映るのか、妹は同級生からさまざまなからかいを受けました。帰宅した妹のランドセルを開けると、ゴロゴロとたくさんの石が出てきたこともありました。

 

そんなことがあり、徐々に妹のために何かしたい、役に立ちたいという気持ちが強くなったのです。そして、小学校6年生の頃、「平たい医者になって、たとえば妹が風邪をひいたときに診てあげられるようになろう」と思い至りました。


照沼秀也先生の、医師としてのポリシー

  • 「平たいお医者さんでありたい」患者さんと共に歩む医療を

もともと妹のために医者を目指したこともあり、あまり「偉いお医者さん」になりたいとは思っていません。やはり私は、地域に根ざし、患者さんともに歩む「平たいお医者さん」でありたいです。

 

在宅医療の現場では、私たちは患者さんと一対一でふれあい、楽しかったことや悲しかったこと、笑いや涙を共有します。たとえ病気や障害があっても、最期まで住み慣れた自宅で過ごし、患者さんが心からその時間を享受してくれていたら、何より嬉しいです。それを実現するためにも、私は、患者さんが何でも話せるような「平たいお医者さん」であり続けたいと思います。

 

  • 地域医療の責務は、患者さんを標準治療につなげること

残念ながら、世のなかには科学的根拠のないヘンテコな治療法が存在していて、それらに惑わされてしまう患者さんも少なからずいます。そのような方々をできるだけ減らし、標準治療注1につなげることが、地域医療の責務だと考えています。

 

注1・・・科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療


いばらき診療所を開設したきっかけ・経緯

  • 在宅医療・訪問診療に興味を抱いた「カレーライス事件」

浜松医科大学時代には、尊敬する教授のもとで外科の領域を学びました。その教授が退官されたタイミングで、大学を出て何かを始めようと思い、医局の先輩から開業の誘いを受けたこともあり、もともと興味があった在宅医療を始めました。

 

在宅医療に興味を持ったきっかけは、訪問診療に携わっていた知り合いの医師が「お昼近くになると、患者さんにカレーライスをご馳走してもらう」という話を聞いて、カルチャーショックを受けたことです。話を聞いたときにはとても驚き、こういう医療は面白い!とワクワクしました。(私はこれを「カレーライス事件」と呼んでいます。)

 

患者さんとの距離が近く、それぞれの人生に触れることができる。それは在宅医療や訪問診療の大きな魅力だと思います。

 

  • 日本中の地域をみて回り、茨城に開設することを決意

在宅医療を始めようと決めてからは、北海道から九州まで20数か所をみて回りました。いくつもの地域をみるなかで、高齢化が進み、東京に近い「茨城」という場所で在宅医療を展開するのは面白いと思いました。茨城は自身が生まれ育った地域でもあり、思い入れも年々増しています。


照沼秀也先生が考える、在宅医療・慢性期医療の魅力とは?

  • 患者さんと長い時間を共にでき、一人ひとりの人生を共有できる

在宅医療や慢性期医療は、患者さんと長い時間を共にでき、一人ひとりの人生を共有できることが素晴らしいと思います。この仕事に携わるようになってから、大学で急性期医療をやっていた頃には知り得ることのなかった、いくつもの貴重な体験をさせてもらっています。

 

あるとき訪問診療で担当した「とっちゃん」という患者さんは、8歳でシェーグレン・ラルソン症候群注2を発症しました。治療しながら高校までは通っていましたが、徐々に体重が落ちて18歳の頃には高校へ通えなくなり、26歳のときに亡くなりました。

母親が外出する際には、診療所でとっちゃんを預かることもありました。とっちゃんはかくれんぼが大好きで、診療所のスタッフと共にどこかに隠れて母親の帰りを待ち、反応をみては大喜びしていました。そんな姿に私たちはいつも元気をもらっていた気がします。

 

きちんとお看取りをすれば、患者さんが亡くなったあと、何世代にも渡ってご家族と関係性が続くこともあります。これは、地域に根ざした在宅医療・訪問診療をしているからこそできるお付き合いかもしれませんね。

 

このように、一人ひとりの患者さんやそのご家族と、深く長いお付き合いができ、それぞれの人生を共有させていただけることは、とても幸せなことだと思います。

 

注2・・・先天性魚鱗癬(生まれたときから皮膚が以上に分厚くなる様相がみられる病気)に、四肢の痙性麻痺や精神遅滞を合併する魚鱗癬症候群のひとつ

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