病気 2018.09.12
超高齢社会における「認知症」の特徴・取り巻く社会の変容
金沢大学附属病院 山田正仁先生
高齢化が進展する日本において認知症患者さんは年々増加しており、2025年には730万人
にのぼると予測されています。高齢者の5人に1人が認知症、という時代は、目の前に迫り
つつあるといえるでしょう。そのような状況で「認知症」は、医学的・社会的に重要なテ
ーマとして注目を集めています。
認知症とは?その特徴
後天的な脳の障害で認知機能が低下し、生活に支障をきたす状態
認知症とは、後天的な脳の障害によって認知機能が低下し、日常生活・社会生活に支障をきたした状態を指します。認知機能とは、記憶する、思考する、理解する、計算する、話すといった機能の総称です。認知機能は低下しているが、生活に支障がない状態を「軽度認知障害」と呼びます。
ポイントは、「後天的な脳の障害」によって認知機能が低下するという点です。先天的に脳の機能に障害があるものは「メンタル・リタデーション(精神遅滞)」であり、両者は明確に区別されます。
日常生活や社会的背景など「環境」が大きくかかわる
認知症は、医学的な視点だけで単純に定義することは難しく、日常生活や社会的背景など患者さんの「環境」が大きなかかわりを持つという特徴があります。たとえば、患者さんの居住地が都心部か地方か、あるいは多人数の世帯か独居か、といった環境の違いによって、日常生活に支障をきたす度合いは異なるでしょう。
このような意味で、認知症は、診断・治療などあらゆる過程で、患者さんの「環境」を考慮する必要があるといえます。
早期に診断し、治療方針を立てることが大切
認知症は、ある日突然発症するものではありません。ほとんどの認知症は、正常な状態から徐々に認知機能が低下し、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)を経て、認知症に至ります。そのプロセスは、以下の3段階に色分けできます。
・正常な状態
・軽度認知障害
・認知症
このように、認知症は徐々に進行していくため、早期に発見・診断し、治療方針を立てることが非常に大切です。
認知機能が低下している場合、たとえ日常生活に支障がなくとも、何かしらの症状があらわれている可能性があります。そのような軽度認知障害の時点で発見・診断できれば理想的だと考えます。
認知症には、原因によっていくつかの種類がある
現在、一般の方にとって「認知症といえば、アルツハイマー病」というイメージが強いかもしれません。実際に、アルツハイマー病が6割を占めています。しかし、認知症には原因によっていくつかの種類があります。認知症のおもな原因疾患は、以下のとおりです。
- アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭葉型認知症
- そのほか(嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症など)
当然ながら、原因によって認知症の治療は異なります。そのため、認知症を正しく診断することは、適切な治療を行うために非常に重要です。
認知症の現状・今後の展望
高齢化の進展により認知症の有病率は増加している
高齢化の進展によって、認知症を発症する方の割合は増加しています。2012年には65歳以上の認知症患者数は462万人(有病率15%)であり、2025年には730万人(有病率20%)にのぼると推測されています。
平均寿命の延伸により認知症患者数はさらに増加していく
以下のグラフをご覧いただくとわかるように、高齢になるほどに認知症の患者数は増加する傾向にあります。日本の平均寿命は、医学の進歩などによって徐々に延伸しています。そのため、今後さらに認知症患者数は増加していくと考えられます。
以上のことから、高齢化が進み、平均寿命が延伸している日本において、認知症の診断・治療は非常に重要なテーマといえます。
認知症を取り巻く社会—これからの課題とは?
認知症になっても成立する社会をつくる
前項でお話ししたように、今後も増加していくと見込まれる認知症は、多くの方にかかわる病気といえます。ある一定以上の方々が認知症になることを前提とするなら、これからは、認知症になっても成立する社会をつくることが課題になるでしょう。
認知症の有用な治療・予防方法を構築する
さらに、認知症の有用な治療・予防法をみつけていくことも重要です。
先にお話ししたように、認知症は患者さんの日常生活や社会的背景が大きなかかわりを持ちます。そのため、患者さんの環境的要素を前提に、認知症の診断・治療のモデルケースを構築していく必要があります。
金沢大学では、認知症克服を目標として、石川県の七尾市中島町にて認知症の追跡調査「なかじまプロジェクト」を実施しています。(詳しくは記事3をご覧ください。)
認知症に関するホットトピック・最新の知見
認知症の遺伝的リスクと血中ビタミンC濃度の関連性を明らかに
金沢大学は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)とともに、認知症の強力な遺伝的リスクとなる「アポリポタンパクE E4*」を有する高齢の女性において、血中ビタミンC濃度高値と、将来の認知機能低下リスクの減少との関連性を明らかにしました。
*アポリポタンパクEは、リポタンパク質と結合して脂質の代謝に関与するタンパク質です。アポEには、遺伝子によって決まる3つのタイプ(E2・E3・E4)があり、E4を有していることは、アルツハイマー病の危険因子であることが確立しています。
アルツハイマー病は、ひとつの病気ではない?
ここからは私見ですが、おそらく、アルツハイマー病はひとつの病気ではありません。
たとえば、遺伝性(家族性)のアルツハイマー病で病因となる単一遺伝子を有する場合、その遺伝子異常による1つの病気ということができます。一方、高齢でアルツハイマー病を発症する場合、複合的な原因によって“脳がアルツハイマー病の状態になる”と考えられます。
このことから、今後は同じ「アルツハイマー病」であっても、その人ごとに異なる原因を明らかにし、個別化したアプローチをする治療や予防が行われるようになると予想しています。