医療政策 2018.08.08
地域包括ケアシステムの役割と課題
厚生労働省 医務技監 鈴木康裕先生
2018年、診療報酬・介護報酬の同時改定が行われ、医療計画・介護保険事業(支援)計画がスタートしました。このように大きな動きを経て、2025年を前に抜本的なパラダイムシフトが起きることが予期されます。医療ニーズの変化に伴い、地域包括ケアシステムの重要性は高まっています。
これからの「地域包括ケアシステム」における課題とは?
- 医療+介護+暮らしを前提に「地域づくり」を計画・実行する
高齢化が進む地域では、医療のみならず、介護や暮らしのサポートが必要になるでしょう。地域包括ケアシステムのポイントは、医療だけではなく介護や暮らしにもフォーカスし、「地域づくり」の観点で計画・実行することです。たとえば、高齢者が一定以上住む地域には医療・介護のニーズがあるため、それらを満たすサービスを提供し、若い世代を雇用する体制を整えることで、彼らをその地域に定着させられる可能性があります。
- 医療の緊急度、近接必要性などを考慮して最適な配置を
医療には、「待てる医療」と「待てない医療」があると考えます。待てる医療とは、緊急度と近接必要性(近くである必要性)が低いものを指します。たとえば、がん治療で抗がん剤を選ぶ際の遺伝子分析などです。一方、待てない医療とは、緊急度や近接必要性が高い医療を指します。たとえば、心筋梗塞や脳卒中のように、治療までの時間が少し変わるだけで予後が大きく変化してしまうような救急疾患などがこれにあたります。このように、地域包括ケアシステムを構築する際には、「医療の緊急度」と「近接必要性」を考慮し、地域内の配置を行うべきです。
今後の医療におけるグランドデザインとは?
- 地域ごとの状況や展望を把握し、対策を講じることが重要
「地域」と一言でいっても、その内情はさまざまです。たとえば、東京を含めた三大都市圏*では今後も人口増加が見込まれますが、そのほかの地域(県庁所在地を含む)では人口は減少していくと推測されています。また、人口増加であっても、その内訳が若年層か高齢者かによって、対策は大きく異なるでしょう。
つまり、人口構造や産業の構造、あるいは公共交通機関でアクセスできる大都市への近接性などによって、その地域における医療のあり方は大きく異なるのです。よって、その地域の状況や展望を把握し、対策を講じることが重要になっていきます。
*三大都市圏・・・東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)および大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)を指す。
*出典:総務省統計局「国勢調査」及び国土交通省「国土の長期展望」
- 「県」が主体となって地域づくりを進めることが大切
しかしながら、国として全体を見渡した政策を立てたとしても、実際には地域ごとの個別性が強く、すべての地域に適応させることは困難です。だからこそ、「県」という単位で地域医療のあり方を考えて進めていくことが必要であり、有効であると考えます。
これからは県が主体となり、人口構造の変化や、医師の不足・偏在を含めた医療提供体制を把握し、将来を見据えて「地域づくり」を行うことが大切です。
医師を含めた医療従事者が意識すべきこと
- ときに、地域の変化や自病院の立ち位置をみつめ直す
数週間、数か月といった短い時間では、日々の診療内容に大きな違いはないでしょう。しかし、5年10年という月日が経てば、医療ニーズは大きく変容する可能性があります。目の前の患者さんに全力投球することはもちろん大切ですが、ときには立ち止まり、地域の変化や自病院の立ち位置などを客観的にみつめ直すことも重要であると考えます。
同じ地域内に規模や特色が似た病院がいくつもある場合、将来的に医療ニーズが減少したときには、地域内の病院がうまく機能分化し、各々の強みを発揮できるような地域連携が必要と考えます。
これからの医療政策における課題
- 国民の理解を広げていきたい
今後は、医療そのものや医療制度改革について、国民の理解を広げていきたいと考えます。たとえば、医師の働き方改革によって長労働時間が規制されれば、休日や夜間の外来時間が短縮されることもあるでしょう。
もちろん、地域医療に混乱を引き起こすような規制は避けなければいけませんが、そのようなとき、国民への理解が浸透していないと、患者さんは病院の対応に不満を感じてしまう可能性があります。このような摩擦を回避するためにも、国民の理解を広げる必要があるのです。